
John Cortrane(1926-1967)といえばジャズ界ではカリスマ的存在、モード奏法から発展し独自の「シーツ・オブ・サウンド」と呼ばれる音を敷き詰める様な演奏は圧倒的な迫力、晩年はフリー・ジャズにも傾倒した。
こう紹介されると、取っ付きにくく小難しい「あのジャズ」を想像されるでしょう。スピーカーの前で目をつぶり、話をしようものなら「黙って」と窘められる、あのジャズ喫茶の雰囲気です。
しかしコルトレーンは、実はバラッド演奏の名手です。お酒を飲み語らいながら聞いてもOK,そんな雰囲気の数多くの素晴らしい演奏を残しています。本日はそのいくつかを紹介します。
BALLADS recorded in 1961
JOHN COLTRANE: Sax
McCOY TYNER: Piano
JIMMY GARRISON: BASS
ELVIN JONES: Drums
その名もずばり「BALLADS」、コルトレーンのバラッド演奏ばかり集めたアルバムです。ジャズでは定番中の定番の名盤、BILL EVANS「WALTS FOR DEBBY」、OSCAR PETERSON「WE GET REQUEST」、そしてこの「BALLDS」は日本における定番「御三家」でしょう。
もちろん全曲バラッド、捨て曲のない名盤ですが、まずは一曲目「Say It (Over And Over Again)」から惹きつけられます。前奏がなくいきなり入るアルト・サックスの美しい音色、そしてバッキングのMcCOY TYNERのどこか淡いピアノのハーモニー。本アルバムはコルトレーンはもちろん、バッキング、特にMcCOYのピアノを味わうと楽しみが増します。センチメンタルな雰囲気は微塵もない、硬派のバラッド演奏が彼らの醍醐味です。統一感があって安心して聞けるアルバムです。
NAIMA from album "GIANT STEPS" 1960
JOHN COLTRANE: Sax
WYNTON KELLY: Piano
PAUL CHAMBERS : Bass
ART TAYLOR: Drums
名盤の誉れ高い「GIANT STEPS」の中の一曲。目まぐるしいコード展開と音を敷き詰めるシーツ・オブ・サウンドが特徴のアルバムですが、この「NAIMA」はその中で唯一スロー・テンポ、清涼剤の様なゆったりとした曲です。単調なテーマをコルトレーンのアルトが繰り返す、どこかスピリチュアルな雰囲気が独特です。途中、WYNTON KELLYがドビュッシー的なピアノ間奏を挿みます。ビル・エバンスの伴奏でも聞きたかったと思うのは、私だけでしょうか。
CENTRAL PARK WEST from album "COLTRANE'S SOUND" 1960
JOHN CORTRANE: Sax
McCOY TYNER: Piano
STEVE DAVIS: Bass
ELVIN JONES: Drums
朝のニューヨーク、セントラル・パークの朝靄がかかった雰囲気でしょうか。コルトレーンは得意のソプラノ・サックスでゆったりとしたテーマを奏でます。McCoyのピアノはとても抒情的で可愛いです。アルバム全体を通じて言えますが、コルトレーンにしては明るい感触の曲です。
WISE ONE from album "CRESCENT" 1964
JOHN COLTRANE: Sax
McCOY TYNER: Piano
JIMMY GARRISON: BASS
ELVIN JONES: Drums
「CRESCENT」は「BALLD」と同じ、不動とされたメンバー4人で演奏されました。メンバーはこのアルバムの直後、有名な「至上の愛(LOVE SUPREME)を録音し、残念ながら解散していきます。そんな過程で演奏された「WISE ONE」は、バラッド演奏とは言えスタンダード中心の「BALLD」とは全く異なるティスとを持っています。「BALLD」が包み込む様な演奏とすれば、「WISE ONE」は、どこか突き放した様な冷たい感触です。囃し立てるELVIN JONESのドラムをバックにコルトレーンが呪術的なソロを繰り広げます。「ぎりぎりバラッド」の、でも味わい深い美しさが魅力の曲です。
IN A SENTIMENTAL MOOD from album "DUKE ELLINGTON AND JOHN COLTRANE" 1962
DUKE ELLINGTON: Piano
JOHN COLTRANE: Sax
AaRON BELL: Bass
ELVIN JONES: Drums
何とデュークとコルトレーンの共演です!
数え切れない程カバーされている超有名曲を、しかも作曲者自らの伴奏で、コルトレーンは唯一無二の解釈の名演を残しました。デュークのピアノはどこかアブストラクトで抒情性を敢えて排除しているようです。これに対し、コルトレーンは祈りを繰り返すようにあの有名なテーマを奏でます。二人とも我が道を行くといった演奏で、インタープレイとは言えないところが、また独特な味わいを醸し出しています。誰も、二度と再演できない演奏だと思います。
求道者の様なコルトレーン、そんな彼が作り出す、冬のニューヨークをコートの襟を立てて歩くような、硬質で冷ややかなバラードを楽しんでください。