
石川セリの「ときどき私は…」は1976年発表、70年代日本のポップスを代表する名盤だと思います。
このブログでは通常、ジャズやフュージョンを紹介することが多いので、この盤を紹介することは意外に思われるでしょうが、バックミュージシャンの素晴らしさ、作詞作曲の良さ、そして録音の秀抜さと、3点揃った稀有なアルバムなのです(もちろん、石川セリの歌唱も良いですよ)。
ミュージシャンを見てみましょう。
松任谷正隆、矢野顕子、伊藤銀二、石川鷹彦、後藤次利、小原礼、村上秀一、斉藤ノブ、シュガー・ベイブ(山下達郎、大貫妙子、松村邦男)
まさしく日本のトップミュージシャンが勢ぞろいです。後藤次利、小原礼のSadistics系の彼らが、松任谷正隆やシュガー・ベイブと共演しているのも珍しい。
作詞作曲陣も超豪華です。
01. Introduction~朝焼けが消える前に 作詞・作曲:荒井 由実
02. 霧の桟橋 作詞・作曲:荒井 由実
03. ときどき私は… 作詞:竜 真知子/作曲:佐藤 健作
04. 虹のひと部屋 作詞:武田 全弘/作曲:瀬尾 一三
05. なんとなく… 作詞:崎 南海子/作曲:佐藤 寿一
06. さよならの季節 作詞:松本 隆/作曲:瀬尾 一三
07. ひとり芝居 作詞:松本 隆/作曲:荒井 由実
08. SEXY 作詞・作曲:下田 逸郎
09. TABACOはやめるわ 作詞・作曲:下田 逸郎
10. 優しい関係 作詞:竜 真知子/作曲:萩田 光雄
11. フワフワ・WOW・WOW 作詞:みなみ らんぼう/作曲:樋口 康雄
12. 遠い海の記憶 作詞:井上 真介/作曲:樋口 康雄
荒井由実の頃のユーミンが楽曲を提供しています。初期の彼女の「暗さ」が良く出ています。
また、瀬尾一三が作曲家として曲を提供していますね。瀬尾氏は日本を代表する編曲家、時代を代表するヒット曲を次々とプロデュースした方です。
全曲お薦め、いわゆる捨て曲が無いアルバムですが、前半(昔はA面と言いました)の四曲の流れが素晴らしいです。
01. Introduction~朝焼けが消える前に 作詞・作曲:荒井 由実
シンセサイザーに続いてトランペットが奏でるイントロが昭和っぽいです(褒めています)。実に荒井由実らしい曲ですが、石川セリにぴったりなのが凄い。豪華ストリングスも加わった編曲が素晴らしいですね。この時代は一曲作るのにも実に時間をかけていた。
02. 霧の桟橋 作詞・作曲:荒井 由実
再び荒井由実作のスローバラード。この曲は石川セリの歌唱を味わう曲です。独特の頼りないハスキーな声が素晴らしいです。ユーミンが唄うこの曲は聞きたくないです(そんなトラックは存在しないけど)。
03. ときどき私は… 作詞:竜 真知子/作曲:佐藤 健作
軽快なメロー・グルーブ。バックに薄く流れるアナログシンセが綺麗、70年代のシンセの使い方は本当に素敵。また、左右スピーカーから聞こえる2台のギターがカッコいいです。一つはリズムギターを刻み、もう一つはオブリガートを奏でます。Marlena Show がカバーした "Feel Like Making Love" での、David T. WalkerとLarry Carltonみたいです。録音も素晴らしく、私はDACを変更したときなど、サウンドチェックに使っています。
04. 虹のひと部屋 作詞:武田 全弘/作曲:瀬尾 一三
シュガーベーブのコーラスが気持ちよく、石川セリのハスキーな声と良く調和しています。この曲もギターのオブリガートが効果的、抜群のセンスの良さです。夫婦の痴話げんかを捉えた歌詞も微笑ましい。
1970年代の日本のミュージシャンは、政治メッセージ性の強いフォークソングの呪縛から逃れ、また、演歌とアイドル中心のテレビからも距離を保ち、海外からの影響を独自に消化した新しい音楽を、意欲的に繰り広げていました。この石川セリのアルバムもそうですが、やっつけ仕事ではないチャレンジ精神を聞き取ることができます。良い意味で上昇志向のある、素敵な時代でした。
ところで石川セリの旦那さんはあの井上陽水です(離婚していないよね?)。井上陽水の代表作といえば「氷の世界」。このアルバムに収められいる名曲「帰れない二人」でも、ミュージシャンの素晴らしい演奏を聴くことができます。
「帰れない二人」作詞作曲:井上陽水/忌野清志郎(共作) 編曲:星勝
「氷の世界」の三曲目、「心もよう」のB面(!)としてシングルカットされましたが、曲の出来としてはこちらがA面と思います。それはさておき、陽水としてはクールな感じがするのは、清志郎と共作の効果でしょうか。演奏は、深町純(pf, keyboards)、細野晴臣(bass)、高中正義(guitar)、林立夫(Drums)などが参加。曲の最初から、深町純のムーグが曲想を決定づけます。この曲は中間部が素晴らしく、高中正義のギターソロに深町純のメロトロン(!)が絡まり、林立夫のドラムインに深町のピアノが被さります。邦楽でメロトロンが聴けるのはこの曲の他にありましたっけ?星勝のアレンジに乗り、陽水の曲を材料に、若手ミュージシャンが好きなことを繰り広げた感じです。彼らは素晴らしい瞬間を築き上げました。