
•現状をITバブル崩壊時(2000年頃)と類似するとの見方は誤り
•ITバブル時の株式保有プレミアムは国債金利を下回るレベルで非合理
•現状の株式保有プレミアムは国債金利を2倍程度上回る通常レベル
multpl.comというサイトがあります。
https://www.multpl.com/s-p-500-pe-ratio
株価に関連する様々な指標の、長期間のデータが検索できる、とても便利なサイトです。
S&P500について、株価/PER/EPSの長期的なデータを眺めて、現在の位置づけを整理してみたいと思います。
Contents
S&P500の長期価格推移(1880~2020)
(出典:multpl.com)
紆余曲折がありながら、右肩上がりに成長を続けていることが確認できます。
気になるのは2000年~2010年間です。S&P500はほぼゼロ成長でした。出来事としては、2001年はITバブル崩壊、そして2009年はリーマンショックが起きています。
2022年に入り、米国株式全般が大きく下落していますが、これから2000年~2010年間の様な「失われた10年」を我々は迎えるのでしょうか?
PER、EPS、米国10年金利を見ながら、考察してみましょう。
S&P500の長期PER推移(1880~2020)
(出典:multpl.com)
PERはかなり凸凹した動きですね。目立つのは2000年、2009年の突出した高さ。
そう、ITバブル、そしてリーマンショック前の株高が該当しますね。各々、PERは45倍、そして65倍!という高さです。
今から振り返ると、2000年〜2010年の「失われた10年」は、高過ぎるPERの修正過程であったと、言えましょう。
PERの適正値は
45倍~65倍のPERは「高すぎる」と言いましたが、数値的にそれを確認してみましょう。
それには、EPSと米国10年金利の推移を確認する必要があります。
S&P500の長期EPS推移(1880~2020)
(出典:multpl.com)
右肩上がりですが、株価ほど「急角度」ではありません。2000年、2009年あたりを見ますと、株価暴落後急激にEPSは下がりますが、その直前は株高・好景気を反映して、それなりのEPSの成長が見られます。
米国10年国債金利の長期推移(1880~2020)
(出典:multpl.com)
高インフレであった1980年頃をピークに、その後金利は低下の一途をたどっています。
2000年、そして2009年の金利水準は各々6%、3%程度でした。
PER45倍、65倍の株式保有プレミアムを計算してみる
PERは以下の式で計算されます。
$$PER=\frac{1}{r-g}$$
ここでrは株式保有プレミアム、gは期待利益成長率です。
rは更に、国債金利+リスクプレミアムに分けられます。ここでリスクプレミアムは、リスク資産である株式を保有するために必要なリターンです。
r=y(国債金利)+p(プレミアム)と表現しましょう。
さて、2000年のPERは45倍でした。国債金利は6%です。国債金利が6%の環境下、企業の期待利益成長率はそれを上回るのが普通です。2%程度はプラスが必要です。8%程度が妥当でしょう。
数字が出揃いました。PER:45、r:6%+p、g:8%
計算すると、r≒10%と求まります。すなわちp=4%です。
2009年(PER65倍)の数字を確認しましょう。国債金利3%、期待利益収益率は5%程度が妥当でしょう。同様に計算すると、r≒6.5%となります。すなわちp=3.5%です。
ここで重要なのは、国債金利とリスクプレミアム(p)の関係です。
2000年:国債金利6%、リスクプレミアム4%
2009年:国債金利3%、リスクプレミアム3.5%
無リスク資産といわれる国債の利回りより、リスクプレミアムが低い、或いは殆ど変わらない。
この状況は不合理で、PERが高すぎた(株価が高すぎた)と判断せざるを得ません。
因みに、現状のPER25倍から計算すると、国債金利2%、リスクプレミアム4%となります。
リスクプレミアムが国債金利(リスクフリーレート)を2倍程度上回る水準です。
現在の米国株式市場は2000年と類似している、今後数年はリターンが期待できないと主張されることがありますが、冷静に数字で分析すると「全く状況は違う」と判断できます。
私は今後もぶれずに米国株式投資(但しインデックス投資)を続けていきます。
<投資は自己責任で>