息子の為の金融論27~金融政策の本当のところ⑨
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デフレに関する代表的な誤解

「息子の為の金融論~金融政策の本当のところ」も9回目を迎えました。

現在のテーマは「物価」です。前回は「物価は総体としての品目の値段(個々のモノの値段の加重平均)」であることを説明しました。今回は物価、特にデフレに関する代表的な誤解を論破することで、物価の意味を再確認しておきたいと思います。

デフレの原因は中国からの安い輸入品が流れ込んだから?

これは10年くらい前に流行った議論です。テレビなどで「経済評論家」とやらが大真面目に言っていました。

「中国から安い輸入品が流れ込んでいるから物価が下がっているのです。日本企業も生産性を上げて中国企業に勝たなければいけない。」

なぜか、おまけに日本企業に対するお説教が付くのが、定石でした。苦笑しかありません。

この評論家は、物価の意味を全くわかっていません(因みに生産性の意味もわかってないです、今回は説明を省きますが)。以下、解説します。

中国からの輸入品で、衣料品の価格が下がったとしましょう。その時家計はどうするでしょう?

衣料品の価格が下がった分だけ、他の商品を買う余力が生まれることを忘れてはいけません。その分、他の商品・サービスへの需要が増え、それらの値段は上がるのです。物価は「個々のモノの値段の加重平均」ですから、衣料品の値段が下がっても他の商品・サービスが上がることで、「総体としての品目の値段(=物価は)」は一定なのです。

但し、家計の購買力が減少している場合は、この限りにありません。だって余力が生まれないのだから。これが日本で起こっていることです。長期的に家計の購買力が下がり続けている、、、これがデフレの主因です。

物価を、個別商品の値段と勘違いするこの誤謬は、有名経済学者でも陥っていることがあります。某大学教授が(この種の間違いを)発言したときは驚きました。しかし日本の経済学者はマルクス系上がりなどが多く、マクロ経済学の基本を知らない(知ろうともしない)輩が多いのです。困ったものです。

デフレで「実質」賃金が上がる?

これは今でも旧民主党の議員などが口にしますね。それと左翼系の人が妙にこの珍説に固執します。物価が下がった分だけ買えるものが増えるよ、実質的に賃金が上がったと同じだ、と言いたいのでしょう。

これらの人は重要な点を見失っています。それは、デフレの経済では賃金も下がる、ということです。正確には、物価が下がる以上に賃金が下がる、と言ったほうが良いでしょう。

日本は、賃金が下がり続けている珍しい国です。アベノミクスでやや回復しましたが、それでも、賃金の伸びは世界標準にはとても届きません。大学でのホワイト・カラー(いわゆるサラリーマン)の給料は、タイやマレーシアより低いケースが散見されています。シンガポールでは、現地の部下の給料が駐在員の倍以上(!)というのも珍しくありません。日本企業がシンガポールに若い研修生を派遣しようとしても、給料が低すぎて労働ビザ(employment pass)が降りないと聞いています。

賃金が下がり続けるのは、デフレが主要因です。デフレの時期には、企業は人員削減を中心にコスト・カットを進めます。特に大企業はこの20年で、相当な数の雇用を減らし、非正規雇用で一部代替しました。よって、仮に大企業での給料は一定でも、非正規に回った分だけ日本全体では賃金は下がっているのです。また、統計上の平均給与には雇用の純減分は含まれませんが、この要素をカウントすると、統計の数字以上に日本人(全体の)賃金は下がっています

しかし、日本経済新聞や官庁に近い(飼いならされた)経済学者などは、日本の賃金が低いのは、労働者の生産性が低いから、と問題をすり替えます。最近は、中小企業が多いことに、労働生産の低さを擦り付けようとしています。デフレを放置する金融財政政策を無視して民間の責任に押し付ける、本当に官僚(とそれに近い人々)は酷いです。
生産性が低いなどと、お前らに言われたくないわ。

デフレは人口減少のせい?

デフレの原因を人口減少に求める本が、少し前に売れてましたね。よくこんな本が売れるな、と呆れて見ていました。

人口が減ると需要が減少し、供給過剰になり物価が下がる、というロジックの様です(馬鹿らしいので真面目に読んでいない)。

しかし、人口が減ると、需要が減少するかもしれませんが、同時に供給も減ることを忘れていませんか?だって、商品・サービスは人が作り提供するのだから。その担い手が減るのでしょうが。

機械やコンピューターが(人を)代替するって?そうかもしれませんが、企業は需要以上に設備投資などしません。需要予測を(しかも多くの場合には保守的、少なめに)立てた上で、機械やコンピューターを購入するのです。

「デフレは人口減少による」と説く人は、マクロ的な考え方ができないのでしょう。また、企業の設備投資の実態などを知らないのでしょう。

果たして、その種の本を書いた人物は法学部出身で、銀行の調査畑の人でした。銀行系のエコノミストは、マクロ経済学を無視するので有名です。そもそも経済学の素養の無い人が、俺様経済学で何の役にも立たないレポートを書いているのが実態です。しかも監督官庁に擦り寄った方向性で。。。酷いものです。私の長い経験で、金融系の方が作成するレポートで役に立ったことは、ほんの数回です(役に立った例の一つは、片岡剛士氏のレポートです、今や日銀審議員)。

正しくは、デフレだから人口が減少するのです。若い人が、将来の所得に自信が持てなくて、結婚できない、子供を産めない、のです。

年配の評論家などが、今の若い人は消費をしない(車を買わない)、恋愛をしない、草食化している、等と無責任なご高説を垂れていますが、全く解っていない。全ての理由は「お金が無いから」なのです。

老人たちは、自分たちが若い時もそうだった(お金がなかった)、というのでしょう。しかし、大事なことを忘れてはいけません。その老人たちが若かったときは、年を重ねれば所得が増えることが期待できました。商売のチャンスも転がっていました。経済は右肩上がりと、何の疑いもなく信じることができました。それは、インフレ経済の賜物なのですよ。

今の若い人はまるで逆の環境にいるのです。逆回転するベルココンベアーの上で走っているようなものなのです。それはデフレのせいです。そしてデフレは若い人たちの責任ではない。。。

老人は、このことを理解しなくてはいけない(が、理解している人は少数派でしょう)。

話は脱線しましが、今のコロナ対策は「老人の為に若い人を犠牲にする」側面を強く持っていると思っています。だって、若い人は罹患しても「ただの風邪」なのだから。。。この一年間の年代別の死亡者数を見れば明らかです。子供に至っては、実質ゼロですよ。

「若い人が罹患して(死亡率の高い)老人にうつすことを避けるために自粛しろ」が緊急事態宣言の本質でしょう。私が若かったら、いい加減にしてくれ、と言いたいくらいです(若い人は口に出さないだけでそう思っているでしょう)。

若い人を大事にしない国は滅びると思います。デフレも含めて、これ以上若い人に負担を押し付けるのは即刻やめるべきです。

 

 

 

 

 

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