息子の為の金融論26~金融政策の本当のところ⑧
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インフレとデフレ 誤解の塊

財政出動や大規模金融緩和の話をすると、必ず「(ハイパー)インフレになる!」と脅かす人が出てきます。また、デフレというと「モノの値段が下がるのでしょう、良いことじゃん」と言う人がいます。

 いずれも不正確な知識に基づく誤解です(確信犯の人もいます、特に経済学者の一部)。

これからその誤解を解いていこうと思います。

 因みに、アベノミクスにより異次元緩和が出動されたとき(2011年)、多くの「識者」は「ハイパーインフレが起こる」「国債が暴落する(金利が上昇する)」と騒いだものでした。

しかしその全ての予想は外れましたね。私はしつこい性格ですので、誰が騒いだかは記録しているのですが、その方々が予想を外したことについて釈明をしたことは、聞いたことがありません

 経済学者もそうですが、特に金融系のエコノミストが酷く予想を外しています。驚くかもしれませんが、エコノミストの多くは経済学をきちんと勉強していません。為替・債券のディーラー出身で「独学で」経済学を学んだと、きます。酷いひとは、経済学なんか間違っている、とまで言い放ちます。全く役に立たない輩です。私の経験で、彼らのレポートが使えたことは一度もありません

物価って何

インフレーション(デフレーション)とは物価が上がる(下がる)ことです。これは誰でも知っているでしょう。しかし「物価」と何かを正確に理解している人は、少ないです。

 感覚的に(日常用語的に)「モノの値段でしょう」とふわっと理解している人が殆どです。だから、デフレは値段が下がるからいいじゃん!という発言に繋がります。

 「物価」にはいくつかの種類がありますが、日本銀行が(金融政策を行う上で)重視している「物価」は「消費者物価指数(CPI)」です。

日本銀行では、2013年1月に、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという約束を示しました。そのため、特に「消費者物価指数<CPI>」の動向を注視しています。   日銀HPより引用

それでは消費者物価指数の定義はどうなっているでしょうか。総務省統計局のHPQ&Aがありますので、そこからいくつか抜粋します。

A-1 消費者物価指数とはどのようなものですか。
消費者物価指数は、全国の世帯が購入する各種の財・サービスの価格の平均的な変動を測定するものです。すなわち、ある時点の世帯の消費構造を基準に、これと同等のものを購入した場合に必要な費用がどのように変動したかを指数値で表しています。
このように、消費者物価指数は純粋な価格の変化を測定することを目的とするため、世帯の生活様式や嗜好の変化などに起因する購入商品の種類、品質又は数量の変化に伴う生活費の変動を測定するものではないことに留意する必要があります。

B-1 消費者物価指数は、どのように作られているのですか。
消費者物価指数の作成に当たっては、まず世帯が購入する財・サービスのうち、世帯の消費支出上一定の割合を占める重要なものを品目として選びます。次に、この家計消費支出割合に基づいて指数の計算に用いる各品目のウエイトを求めます。なお、家計消費支出割合は家計調査の結果などを用います。
各品目の価格は、主に毎月の小売物価統計調査によって調査したものを用います。
指数の計算は、調査市町村別の平均価格を用いて(※)個々の品目の指数(基準年=100)を計算し、これらをウエイト(家計の消費支出に占める割合)により加重平均して、中分類、10大費目、総合などの指数を計算します。
現在の消費者物価指数の基準年は平成27年(2015年)ですが、基準年は5年ごとに改定(基準改定)しています。

物価の本質 簡単な例で考えてみる

正確な理解のために少し詳しく引用しましたが、要は「物価とは個々の品目の値段ではなく、総体としての品目の値段(の変化)」と理解すれば良いのです。

簡単な例を示しましょう。

米、肉、魚、野菜、電気ガス の5つのみが消費の対象とします。
基準時点で各々の値段が 10、30、20、20、10、とします。
消費のウエイトは0.2、0.2、0.2、0.2、0.2とします。
この例では(途中の計算は省略します)「消費者物価指数」は18となります。

さて、経済がある程度成長できていて、人々が将来の所得の増加をある程度期待できるとしましょう。人々は贅沢品である肉の消費を増やします
結果、肉の値段は35となり、需要が減った魚の値段は15となりました。また、消費のウエイトは肉が0.3、魚が0.1となりました。
消費者物価指数を計算し直すと、20となります。インフレ率は約11%となります。

これがインフレーションの本質です。人々が消費行動をより高度化することで(値段の高いものを変えるようになることで)全体としての物価があがるのです。その前提に経済成長がある、ことは忘れてはなりません。

次にデフレーションの例を示します。
基準時点は前の例と同じとして、人々が将来の所得の減少を予想するとします(この20年の日本を思い出してください)。今度は人々が所得の減少に対応するため全ての消費を減らします。消費のウエイトは変わらず、全ての値段が1下がります。消費者物価指数も、当然1下がって17となり、インフレーション率は△5.5%となります。

モノの値段の決まり方

以上、消費者物価の簡単な計算例、インフレとデフレの事例を示しました。

経済成長とインフレ、所得低下とデフレが密接な関係にある、ことが理解できましたでしょうか?

但し、今までの説明には、肉の需要が上がったから値段が上がる、消費が減るから全体の価格が下がるロジックが抜けています。

また、金融政策(お金の量の調節)とインフレ・デフレの関係も示しておりません。

これらを次回以降説明していくのですが、今の時点では以下を頭に入れておいてください。

  • 物価は総体としての品目の値段(個々のモノの値段の加重平均)
  • 個々のモノの値段は需要・供給の法則で決まる
  • 賃金(給料)も需要・供給で決まる「値段」である
  • 一国の経済には需給ギャップがある
  • マネーストックと物価には密接な関係があるが、需給ギャップの状況に依存する

次回、上記の説明をします。

 

 

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