息子の為の金融論22~金融政策の本当のところ④
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金融政策の本当のところ~今までの纏め

金融政策を理解するための序段として、「お金はどのように生じるのか」「お金はどの様に誤解されているか」を中心に説明してきました。

  • お金は「借入」から発生すること(銀行融資によりお金は創出されること)
  • 通常の金融論が教える、預金が融資の原資であるとの説明は、誤りであること
  • 「預金制限説」(国民預金が融資の上限となる)という誤った理解が流布していること
  • 現代のお金は「管理通貨制度」の下にあること
  • 管理通貨制度下のお金は「データ」であること
  • データであるお金の「裏」には金銀財宝など存在しないこと

最後に、「失われた20年」のデフレ期に日本企業はお金を返済し続けたこと、その結果流通する「生きた」お金が減り続けていること、を説明しました。

次に「お金が少ないと社会はどうなってしまうのか」を説明します。

日本が「お金を減らし続けてきた」世界でも稀有な国であることを念頭に置いて、読んでくださいね。

クルーグマンによる子守協同組合のエピソード

行き詰った子守協同組合

アメリカの経済学者クルーグマン(Paul Krugman)はアベノミクス以前の日銀の金融政策を鋭く批判してきました。そのクルーグマンが良く引き合いに出す「子守協同組合」の比喩をここで紹介します。日銀の陥った誤り、「お金が少ないと社会はどうなってしまうか」の本質が理解できると思います。クルーグマンの説明について、山形浩生氏による訳文へのリンクを以下挿入します。

『経済を子守してみると』
https://cruel.org/krugman/babysitj.html

少し長いので(僭越ながら)以下要約させていただきます;

  • この「子守協同組合」のエピソードは1970年代に実際にあった話
  • 「子守協同組合」とは、外出などの用事ができたときに、他の夫婦が子どもの面倒を見るという約束で集まった組織。ベビーシッターを組合内部で完結することが目的。子守代の節約にも繋がる
  • この組合はクーポン制を導入した。入会時に各夫婦は複数枚のクーポンを(平等に)配布され、夫婦はそのクーポンを使うことで他の夫婦に子守を任せることができる
  • 逆に、他の夫婦のために子守をすることで、クーポンを獲得することもできる。クーポンは時間制なので、より多くの時間子守を任せる為には、他の夫婦の子守をしてクーポンを多く獲得し貯めなければならない
  • この組合はすぐに行き詰ってしまった。みながクーポンを貯めようとして、外出を控えたのだ。子守をお願いする夫婦の数が減り、子守サービスが提供される機会が激減してしまった
  • クーポンは夫婦の手元に貯蔵されるだけとなり、この組合の活動は「停滞」してしまった

もうお判りでしょうが、この話ではクーポンは「お金」を、組合は「経済」を意味しています。皆がお金を貯めこむと、経済は停滞する、すなわち不況の陥るのです。それではこの組合はどのように停滞を打破したのでしょうか

組合はどの様に停滞を打破したか

この(実在した)組合のメンバーは殆どが弁護士だったので、規制(例えば週二回は最低外出することを義務とした)によって打破を図ったが、どうにもうまくいきませんでした。

それではどうしたのでしょうか。答えは実に簡単でした。配布するクーポンの量を増やすのです。手持ちのクーポンが増えれば貯めこむ必要性は薄れるでしょう。夫婦は外出して(子供を預けて)クーポンを使うようになったのです!組合のクーポンの流通はこれにて活性化したのでした。

この話は示唆に富むものです。つまり「お金が少ないと」社会は不況に陥ってしまうのです。その場合の解決法は?逆をやれば良いのです。お金の量を増やせば良いのです。

日本の長期不況について、やれ少子高齢化だ、日本人の生産性が低いからだ、あげくにはもう経済成長しない運命なのだ、と色んな説を宣う御仁が出てきます。殆どが人文系の学者、知識人ですね。日本の場合は経済学者もこのレベルの発言をします。困ったものです。

しかし不況の答えはお金が少ないこと、そのお金を少なくしている政府・日銀の金融経済政策が間違っているからなのです!

このことはアベノミクス当初の金融緩和で証明されました。失業率は大きく改善し、経済を先読みする金融市場では株高、円安が進みました。しかしその後アベノミクスは消費税を上げ(この政策はお金を政府が吸い上げ、社会から減らす負の効果がある)当初企図したデフレからの完全脱却は、成し遂げられませんでした。

子守クーポンによる「金融政策」

クルーグマンはこの「子守協同組合」を使って金融政策の思考実験をします。

手持ちクーポン以上に今外出したい(子守をお願いしたい)夫婦に対して、組合はクーポンの貸出し制度を始めました。これによって、夫婦は先に外出して後で子守をするという、選択肢が増えました。クーポンの流通はますます活性化します。

外出したがる夫婦が増えて子守できる人が足らなくなってきました。組合はクーポンの貸出しに利子を付け、その利率を上げました。外出したがる夫婦の数が抑制されます。
今度は逆に、悪天候が続いているからか、外出する夫婦が減ってきました。クーポンがまた貯めこまれていきます。組合は利率を下げました。こんな安い利息ならば、ということでクーポンを使う(外出する)夫婦が増えました。。。そう、金利を上げ下げする「金融政策」の始まりです。

流動性の罠からの脱出

「金融政策」も加わり順調に活動していた「子守協同組合」ですが、困ったことに、メンバーがまたクーポンを貯め始めたのです。今年は冷夏、悪天候が続くとの天気予報のせいで、皆が来年の夏の長期休暇に向けてクーポンを貯蔵しようとするのです。組合は利率を下げて外出を促そうとしますが、夫婦はなかなかクーポンを使おうとしません。。。組合はついに金利をゼロまでに下げましたが、状況は変わりません。夫婦達がクーポンを貯めようとすればするほど子守を頼む人が減り、手元のクーポンがただ退蔵されていくのです。

そう、クルーグマンは「金利をゼロまで下げても不活発な組合」を日本経済の比喩として使っているのです。また、このケースは経済学でいう「流動性の罠」の簡単な説明にもなっています。

さあ、「流動性の罠」に陥った日本、それに対してクルーグマンが考案する脱出法は何でしょうか?

彼は「全く明白」と前置きしたうえで、「冬場にため込んだクーポンは夏には価値が減少する」とはっきりと決めることだ、と言います。こうすれば、夫婦達がクーポンを使おうとするインセンティブが働き、「罠」からの脱出が図れると。

この子守クーポンの実際の経済へのインプリケーションは、流動性の罠に陥った経済からの脱出には「インフレ期待」が必要であるということ。日本人がため込もうとする円は、半年後、一年後には今よりも少ししか買えなくなると、人々が予想すること。そしてそれに向けた金融政策を日銀が行うこと、すなわち「インフレ目標政策」が必要であると、いうことです。

「子守協同組合」からアベノミクスへ

この子守協同組合が示唆することは;

  • お金が少ない経済は不況に陥る
  • 貸出し(信用創造)でお金を増やし、経済を活性化することができる
  • 金融政策(金利の上げ下げ)でお金の流通を加減できる(経済の好不況への対応となる)
  • 人々がお金をため込む一方だと経済は不況に陥り、(通常の)金融政策では対応不能となる(流動性の罠)
  • 流動性の罠から脱出するには、お金が減価することの予想、すまわちインフレ期待が必要となる

それでは人々に「インフレ期待(予想)」を浸透させるにはどうしたらよいか。

それは、中央銀行が経済を一定程度のインフレに運営していくことを宣言すること、同時に(実際に)大量の資金供給を行うこと、そしてインフレ目標達成への一貫した姿勢を示すこと、が必要条件となります(十分条件ではないことに注意)。

これらは全て、アベノミクス初期で実際に行われたことです。そして見事な成功を遂げました。予想インフレ率は上昇しました。先をよむ金融市場では資産価格の上昇が顕著になりました。労働市場では最も敏感な非正規分野から人手不足が始まりました。

しかし、アベノミクスは消費増税を始めとする財政政策で、逆噴射を始めたのです。。。

 

次回は財政政策とお金の関係など、解説していきます。

 

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