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お金について理解することが重要なわけ
前回まで「お金は借金から生まれる(初めに借入ありき)」ことを中心に説明してきました。
金融論のテキストや一般常識では銀行は預金を元手に貸し出しを行う、ことになっていますので、まるで逆が真実だということです。
この「常識」、預金から貸出、は直感的にわかりやすいので、恐らく国民の9割はそのように刷り込まれているのだと思います。この刷り込みは、国に存在するお金は国民預金が上限となる、という考えに直結します。この「預金制限説」は、金融緩和はリスキーだ、ハイパーインフレが来る、財政出動はもはや限界だ、国債が破綻する、等の、日本では定説だが事実は徹底的に誤っている言説の基礎になってしまっています(日本人は直ぐに「国にもうお金はない」と、恐らく無意識に、呟きます)。
金融財政政策の限界を強調する言説は、日本の政治家、官僚、経済界、マスコミ等に支持されそして「利用されて」、結果長期に渡る緊縮財政が敷かれて、日本は世界でほぼ唯一経済成長をしない国となり、国民は窮乏の道を進んでいます。コロナ禍はこの流れを加速するでしょう。このまま緊縮が続けば、日本は10年後にはアジアの貧国となり、日本人は低賃金で真面目に働く労働者とて各国で珍重されます。私はシンガポール居住が長かったのでイメージが湧くのですが、日本人の男性は肉体労働者、女性はメイドとして(喫茶じゃないですよ)アジア各国に出稼ぎに行く未来が見えてしまいます。
このように考えると、このお金に対する誤解はものすごく根深く、そして罪深いことがわかります。
「最初に借入ありき」に関する2つの疑問に答える
事程左様に「お金は借金から生まれる」という事実は重要なのですが、このことを説明すると大体二つの質問が来ます。
一つは「そんなに簡単に借金(銀行にとって貸出)は造れるの」、もう一つは「銀行は貸出しの原資はどうしているの」です。一つ一つ説明しましょう。
銀行は貸出しを「簡単に」造れるか
この質問に対する回答は、銀行は貸出しを「簡単に」造れますが「勝手には」できない、です。
簡単に造れるのは、今や金本位制ではありませんので、貸出しを行う際に金庫に金を準備する必要はありません。前に説明した通り、今やお金はデータですので、システムに金額を打ち込むだけです。企業側も、多くは銀行とシステムを繋いでおり、借入金額がちゃんと記帳されているか、確認するだけです。その意味で「簡単に」貸出しは造れます。
一方、銀行は各種規制に縛られています。代表的なのは自己資本比率規制で、貸出総額が自己資本の何倍までと、決められています。この規制は複雑ですが、ざっくりといえば自己資本の12倍まで貸出しを造れます。12倍ですよ。結構大きいでしょう。そして日本の銀行の多くは、その貸出しが12倍に達していません。企業の借入需要が薄いからです。日本経済のデフレが放置されていることが主な原因でしょう。自己資本規制だけではありませんが、各種規制があるので「勝手には」貸出しは造れないのです。
でも、現状は12倍にほど遠いのだから、銀行は借入需要さえあれば貸出しを簡単に造れるのです。
「簡単」だけれど「勝手には」造れない、意味がおわかり頂けたでしょうか。
銀行はどのように貸出しの原資を調達しているのか
「預金から貸出」の印象で考えると、銀行は貸出しの前に「預金集め」をして資金を準備するように思えるでしょう。これは、大きな支出の前にお金を蓄える必要のある家計の感覚からは、当然に思えます。
しかし、銀行の資金繰りは全く違います。まず、彼らは即時換金可能な金融資産を多量に保有しており、それらを売却して必要な資金を捻出できます。また、コール市場と呼ばれる銀行間の貸借市場があり、莫大な額の資金を日々(銀行間で)融通しあっています。
一企業に対する融資などは、上記のやり繰り(資金繰り)で十分吸収可能です。融資の前に預金集めをすることなどありません。
また、現在は「異次元金融緩和」が行われていますので、銀行が日銀に保有する預金口座(日銀当座預金)に膨大な資金が「眠って」います。貸出しの原資としては、今やこの日銀当座預金から振り替えるだけの話となっています。しかし「企業が借入をしようとしない」のでいつまでも当座預金として「眠ったまま」なのです。
銀行の「貸出し原資」は今や有り余っているのです。国民預金が上限などという話は、現実問題としてあり得ないのです。
借金をしない企業 だからお金は増えない
銀行の日銀当座預金に膨大なお金が「眠っている」と説明しました。「眠っている」と表現したのは、そこ(日銀当座預金)から企業の貸出しに向かわない限り、生きた(流通する)お金にはならないからです。今は、異次元緩和で日銀当座預金はじゃぶじゃぶなのに、経済に出回るお金は増えてないのが、現状です。
なぜお金は増えないか?もうお判りでしょう。それは企業が借金をしないからです。
私は長年企業財務に携わっているので、実際の経験として企業が借金をしなくなった経緯が理解できます(そして結果お金が増えなくなったことも)。
バブル崩壊前は、企業は借金してそれを投資に向けたものでした。投資をするということは、工場を建てたり人を雇ったりすることに繋がります。借金したお金は、その工場の設備を購入したり、雇用した人々への給与として使われるのです。
工場設備を製造する会社には、私の会社から代金が振り込まれます。そのお金は彼らの預金となるのです。そしてその預金から、設備の原材料を造る会社にまた代金が振り込まれます。今度は原材料製造会社の預金が増えます。そしてまた・・・という様に、お金はぐるぐる流通するのです。これが「生きた」お金です。
ところがバブル崩壊後は、企業は保有資産を売却して得た資金、或いは売上から得た現金(キャッシュフロー)で、まず借金を返済することに専念しました。個々の会社の財務体質改善には繋がりますが、ほぼ全ての会社が借金を返し始めると、国全体ではお金が減る方向に進みます。投資に回す場合の様に、お金の循環が生まれませんので。
企業が借金をして投資活動をすることでお金の正の循環が生まれるのです。ところが日本はバブル以降、負の循環が進んだのです。これがデフレの正体なのです。人口減とは全く関係ありません。
次回は「お金が少ないとどうなるの」について説明します。