息子の為の金融論19~金融政策の本当のところ①
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「息子の為の金融論」では今まで主に、株式投資の本当のところ、を中心に説明してきました。このテーマの発展形として、株式を発行する側の企業財務(私の本職)について、今後詳しく語りたいと思っていますが、一旦中断して、金融政策の本当のところ、に話題を移そうと思います。

コロナに伴う経済的被害は、今秋にかけて日本全体に更に広がることが危惧されます。これを防ぐには政府の財政出動と金融政策による下支えが不可欠です。しかし、金融政策については、その本当のところが国民に広く知れ渡っているとは言えません。むしろ大きな誤解が広まっているのが実態と思います。その辺の誤解を解くことが本稿の目的です

解りにくく誤解に溢れる金融政策

金融政策の教科書を開くと、冒頭から「マネーサプライ」「M1」「日銀の金融調節」などの説明から始まることが多いです。正直、初学者にはさっぱり解らなく、途中で投げ出してしまいます。また多くの教科書は、説明の便宜のためか或いは古い流儀に従っているのか、誤解を導く表現に溢れています。

そこでこのブログでは、最初に「お金はどのように生じるのか」「お金はどの様に誤解されているか」「お金が少ないと社会はどうなってしまうのか」を説明します。これらを理解すれば、アベノミクス(第一の矢、大胆な金融政策)やMMT論争の意味が良く解る筈ですので。

尚、ここで「お金」とは銀行以外が保有する「現金(コイン・紙幣)」と「預金」のことを指します。ときに誤解されていますが、お金に占める割合としては預金が圧倒的に多いです。以下読み進めるのに念頭においてくださいね。

お金はどの様に、どんな形で生まれるのか

金融は会社・銀行が実際に行っている実務です。あまり観念的に考えても意味ありません

会社財務の実務から言えることは、お金は「銀行から借りる」ことで生み出されるということです。

具体的には銀行に「借入申し込み」を行い、「金銭消費貸借契約証書」を差し入れします。

そうすると、契約書で設定した借入日に会社の当座預金に銀行から借入金額が振り込まれます。

会社は、その当座預金を使って工場への投資を実行し、仕入れ先や従業員への支払いを行うのです。

ここで重要なことが2つあります。

 ①最初に借入があって預金が創出されること

 預金は銀行が記録するデータに過ぎないこと

 一つ一つ見ていきましょう。

最初に借入ありき

殆どの人が誤解していること

「最初に借入ありき」、ここは多くの人が誤解しているところです。

個人で考えると、働いて会社から給料をもらって、それを蓄え銀行の窓口にいき、預金を作ります。

こうすると何か労働から預金が作られている「感じ」がしますね。違います。

給料は会社からもらいますね。会社は給料をどう払うかというと、会社の預金を減らして従業員の預金口座に振り替えているのです。つまりもとは会社の預金なのです。

そして会社は借入をして預金を作ることは、冒頭述べたとおりです。

 もちろん世の中会社員ばかりではありません。上はわかりやすい代表例として使っています。

 借入から始まる銀行の信用創造

でもこの例でわかるとおり、個人は無から預金を作ることはできませんよね。必ず第三者からお金を貰わねばなりません。そしてその第三者もまた別の誰かから。この堂々巡りの連鎖を打ち破るのが銀行です。

銀行だけが貸し出し(会社から見れば借り入れ)を行うことで預金を生み出すことができるのです。

これを「信用創造」と呼びます。金融論の標準的テキストには必ず出てきます。

 罪深い金融テキストの誤り

しかし殆どのテキストでは、「預金から貸し出しが創出される」、として信用創造が説明されています。

事実とはまるで逆です。事実は上で説明した通り「借入から預金が創出される」です。

何故このような事実とは真逆の説明がされているのかは謎です。私も大学時代に「預金→貸出」と学びましたが、会社で借入の実務をしたり、小切手・手形を振り出したりして、教科書が間違っていることがわかりました

 しかしこの教科書の記述は単に間違いではすまない罪深いものです。

なぜならば「銀行は預金の範囲でしか貸し出しができない」という誤解に人々を導くからです。

 この「預金制約説」は、そのまま「政府の財政支出は国民預金の範囲でしかできない」という珍説に繋がり、TVで有名な「識者」が滔々と説明したりします。

なぜ「預金制約説」が広まっているのか

貴方も、銀行は預金があって初めて貸し出しができる、と思っていたのではないでしょうか。
そしてその延長線上で、政府・日銀の経済政策の上限は国民の預金、とふわーと感じていたのではないでしょうか。

でもこれは誤りです。理論上とか解釈上とかではなく、事実として間違いなのです。

この間違いが流布しているせいで、日銀の大規模な金融緩和はリスクがある、政府はいつまでもお金を使い続けることができない、というあの誤った「常識」がまかり通ってしまうのです。

まずこの誤りは学者の実務の無理解から始まっていると思います。私も会社に入って事実を知りました。

「解っていたけれど説明の便宜のために預金→貸出と記述しただけ」と説明する人もいるようですが、こんな大事なことを「便宜のため」に扱われるのでは学生は迷惑です。

そして、それ以上に悪質なのが、この「預金制約説」のイメージを使って財政学者などが「国の財政は破綻する(ゆえに増税が必要だ)」と毒説を垂れ流していることです。

私は、今や学者達(財政緊縮派)は意図的に「預金制約説」を訂正しないのだと思います。確信犯ということです。ここを国民に知られると、自分たちの言説が嘘であったことを見破られるきっかけになるからです。

事程左様に、「最初に借入ありき」の事実は重要です。まずはこの事実を覚えてくださいね。

お金はデータ

私は会社のお金を何百億円と動かしていますが、お札を触ることは殆どありません。
銀行とシステムを繋いだ(ファームバンキングと呼びます)PC上で数字を確認するだけです。

この様に、現代のお金はコンピューター上で管理される数字データです。

数百億円の振り込みをする時に、膨大な数の一万円札は銀行間を動きません。

また銀行の金庫に何兆円というお札の現物がある訳ではありません。まして金銀財宝はありません。

当たり前かもしれませんが、このことは強調しておきます。何故なら、銀行が「借入によって預金を創造する」と説明すると、そんなに簡単にお金ができるの、と不信感を持つ人が多いからです。

そうなんです。簡単なのです。キーボードに打ち込むだけですから。

この事実、現代ではお金はデータに過ぎないこと、も良く覚えてください。

(ご参考)
以下はバーナンキ(*)の発言です。記者から「お金を刷ったの」と聞かれて「ただコンピュータに打ち込んだだけさ」と答えています
(*)元FRB議長、リーマンショック後のアメリカ経済を金融緩和により立て直した

 

MMT、Modern Monetary Theory(現代貨幣理論)について

今回は二つの事実、「借入からお金が生まれる」「お金はデータに過ぎない」、を説明しました。

「民間銀行は勝手に預金を作れるのか」と疑問をお持ちでしょう。安心ください。追って説明していきますから。当然、日銀(と政府)が登場してきます。

でも、今の段階では上の事実を知ってください。よく考えれば当たり前と思いませんか。

ところでMMT(Modern Monetary Theory)が話題になることが多いですね。

「政府財政支出に財源はいらない」との主張で話題をさらいました。コロナ禍のこの経済状況下、非常にキャッチーです。

このMMTが強調するのが「お金は借入から生み出される」という事実です。私はMMTを全て支持するものではありませんが、この事実を世間に広めた功績は非常に大きいと思います。

MMTを主導する学者の一人は国債トレーダー出身のようですね。やはり実務に基づいた金融の知識が活用されていると思います。

 

 

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