
貸借対照表を見る① 安全性分析~債権者の視点
前回に続き貸借対照表(Balance Sheet, 以下B/S)について説明を続けます。
B/Sは会社の「体力診断表」と言われますが、それは会社がどの程度「安全」か(≒倒産しないか)を分析できるからです。
この分析は債権者の視点となります。何故なら、倒産は「借りたお金を返せない」状況に発生し、倒産で一番被害を受けるのは債権者だからです。
この観点から、会社の安全性分析の中心は負債、特に借入金の絶対的・相対的な大きさが中心となります。
安全性分析の代表的指標は、1)自己資本比率 2)Debt Equity Ratio(DER)3)Debt/EBITDA倍率、の三つです。各々説明しましょう。
1)自己資本比率:資産合計÷資本合計 上の例では、3,000÷6,000=50% です。
代表的な安全性指標と言われます。少なくても30%以上は必要、50%以上ならかなり良好とされます。自己資本比率の意味は、資産が返済の必要がない資金で賄われている割合です。直接に計算式には出てきませんが、やはり負債(返済の必要がある資金)が分析の中心です。
2)Debt Equity Ratio (DER):借入金合計÷資本合計 上の例では、2,200÷3,000=0.73 です。安全性の観点からは、少なくとも1を下回ることが必要とされます。負債合計ではなく、借入金(有利子負債とも言います)に注目している指標です。株主の観点からはレバレッジとも言います。レバレッジ(梃子)の意味は、自己資本を元手に借入金で「増幅して」資産を保有しているからです。自己資本が100億円の会社が100億円の借入をすれば200億円の資産を持てますね。梃子の原理で資産が2倍になったのです。このように、DERは安全性を見ると同時に効率性の指標でもあります。安全性と効率性のトレードオフを良く表しています。
3)Debt/EBITDA倍率:借入金合計÷EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)EBITDAについては以下投稿を参照してください。
利益で借入金を何年で返済できるか、を示す指標です。上の例でEBITDAを4億円とすると、倍率は5.5倍(2,200÷400)となります。つまり、この会社は稼ぎで借金を約5年で返せるのです。安全性の観点からはこの倍率が低い方が好ましいですね。ただ1倍を下回る様な状況では、借入をして(レバレッジをかけて)投資をするほうが望ましいとの見方もあります。ここでもトレードオフが出てきました。尚、倍率は英語でマルチプルと呼ぶと、プロっぽくてカッコよいです(M&Aの世界で良く使われます)。
貸借対照表を見る② 効率性分析~株主の視点
貸借対照表は安全性のみならず、会社の効率性分析にも使えます。上の安定性分析は債権者の視点でしたが、効率性分析は株主の関心と言えましょう。代表的指標は 1) Return On Assets (ROA) 2) Return On Equity (ROE) 3)Return On Invested Capital、の三つです。
以上の指標は全て、B/S項目に対する利益の指標、ですので、損益計算書の例を以下に示します。これら財務諸表から上記の指標を以下計算します。
1)ROA(総資産利益率):純利益÷総資産 例では240÷6,000=4%です。保有資産を全て使ってどの程度の効率で利益を生んでいるか、を示す指標です。ROAの水準は業種によって大きく異なります。工場などを持たないIT企業、サービス関連業は高く、利鞘の薄い貸出債権を多く持つ銀行は低い傾向にあります。従って、ROAの大小は、同一業種の中で比べる、或いは自社のトレンド(低下傾向にないか)をチェックするなどの文脈で議論するのが妥当です。
2)(自己資本利益率):純利益÷自己資本 例では240÷3,000=8%です。株主が重要視する代表的な指標です。自己資本がどの程度の効率で利益を生んでいるか、を示しています。自己資本は株主が拠出している資金の総計ですから、株主としては、自分が預けたお金がどの程度の利回りで回っているか、を直接的に示す数字となります。投資はリスクを負う代わりにリターンを狙う活動です。リスク以上のリターンが得られない投資は割に合いません。以前の投稿でも説明していますが、株式投資は8%程度のリターンが最低でも必要とされています。この事実を会社側から見ると、自己資本の8%以上の最終利益を残さないと株主の期待に答えていないことになるのです。
ROAの適正値は業種或いは個別の会社で異なるものですが、ROEの最低基準(すなわち8%以上)は投資家の視点によるものですので、ほぼ一律と考えて良いでしょう。会社の効率性を測る基準として恣意性が入りにくい、絶対的な指標と言われる所以です。
3)ROIC(投下資本利益率):税引後営業利益÷投下資本 事業活動のために投じた資金(投下資本)を使って、企業がどれだけ効率的に利益に結びつけているか、を示す指標です。少し解りにくいのが難点です。
まず、税引後営業利益とは、NOPAT(Net Operating Profit After Tax)と略され、事業活動による(税後)収益のことです。上の例では440=600-160がNOPATです。
次に、投下資本とは、有利子負債+株主資本 で計算されます。上の例では 5,200=1,000+1,200+3,000 です。この投下資本の額は、資産サイドで見ると、運転資本(流動資産ー買掛金ーその他)と固定資産の合計、と一致します。(2,000-600-200)+4,000=5,200 一致してますね。
このことは、営業活動に必要な日々の資金と、工場など長期的に必要な資金の合計を、借入金と自己資本で賄っていることを示しています。
さて、ROICを計算しましょう。440=5,200≒8.5% となりました。
この3%のROICは高いのか、低いのか。その判断の目安にはWACC(Weighted Average Cost of Capital)を使います。WACCとは加重平均資本コストと訳され、借入コストと資本コストを加重平均することで求めます。ここで借入コストを0.5%、資本コストを8%とすれば、WACCは次の計算で求められます。
0.5%x(2,200÷5,200)+8% x (3,000÷5,200)≒ 0.2+4.6=4.8%
WACC4.8%に対してROICは8.5%です。3.7%の超過リターンを生んでおり、この会社は資金拠出者の期待に十分応えているといえましょう。