
貸借対照表 会社の「体力診断表」
損益計算書と貸借対照表は財務諸表の双輪です。前回説明した損益計算書は、会社の「年間成績表」でした。それに対して貸借対照表は「体力診断表」です。架空の数字ですが、貸借対照表は以下の様なものです。
左側に「資産」、右側に「負債・資本」を記載します。
資産とは、金銭に変えられる(≒売ることのできる)有形・無形の財産のことです。その財産を保有する期間が短期(一年未満)か長期かで、流動資産、固定資産に区分します。
負債とは、支払義務や返済義務を表す契約上の金額です。マイナスの資産とも表現されます。わかりやすいのは銀行借入でしょう。利息を払って元本を将来返さなければいけないお金ですよね。買掛金はモノを買ったのに代金を支払っていない金額のことです。これも将来支払う義務のある金額ですので、典型的な負債となります。
資本は、会社設立の際に準備する「元手」である資本金と、その後事業活動で得た利益の積み上がりである剰余金に(大きく)分けられます。資本は負債と異なり返済義務はありません(←ここ重要)。その意味で「自己資本」とも呼ばれます。但し、正確には株主(資本金を提供した人々)のものですので「株主資本」と呼ぶのが妥当でしょう。
資産と負債・資本の金額は必ず合致する
上の例で示した通り、資産合計と、負債・資本合計の数字は必ず一致します。
その理由は、簿記のルールに従って貸借対照表は作成されるからです。
簿記のルールとは、左右(貸借)の金額が一致する会計データ(仕訳)を積み上げること、です。
具体的に見てみましょう。1,000億円を銀行から借り入れた場合の仕訳です。
借方、貸方は左側、右側の別名と覚えてください。
現預金、短期借入金は勘定科目といい、会計データを積み上げる細目のことです。
このデータは、銀行から借入を行い現預金が10億円増えました、という活動を会計的に記録するものです。現預金と短期借入金が各々10億円増えていますね。
この様に、銀行から借入を行うという一つの行為を、原因と結果という二つの側面で記録しています。この、金額が一致する二つのデータに分けて記録することが簿記の鉄則です。
このデータの積み上げが貸借対照表ですので、左右(貸借)はルール上必ず一致するのです(仮に一致しなかったら、左右が一致しない誤データが計上されたことになります。経理部では毎日この誤りがないかチェックをしています。)
よくある誤解 「資本は現金」
原因と結果の二つの側面で記録するという簿記のルールは、資産と負債についてはわかりやすいのではと思います。負債(上の例では銀行借入)が原因で資産(現預金)が結果、という関係です。実際大枠では負債が原因で資産が生じる、と理解しても間違いではありません。
一方、資本については多くの誤解があると感じます。一番大きな誤解は、資本は財産である、というぼんやりとした理解です。
一時期、企業の内部留保に課税するというトンデモな主張がありました。今は無き(未だあるのかな?)希望の党が力説していました。小池百合子氏が党首だったあの党です。
内部留保とは、貸借対照表資本の部の、剰余金を指していたようです。
このトンデモな発想が出てきたのは、おそらく剰余金という現金が会社の金庫にたっぷり眠っているという誤解(妄想)からでしょう。
これは二つの意味で間違っています。
一つ。貸借対照表を見てください。剰余金は右側、負債・資本の部に表記されています。上で説明した通り、こちら側は左側(資産)を生じさせる原因を記す側です。こちら側に10億円と記されていても、同じ金額の現金がある訳では全くありません。実際、上の例では現預金は1億円です。
二つ。剰余金は確かに企業の利益によって積みあがり、利益は現金(キャッシュフロー)として一旦会社に流入します。しかし会社はその現金をそのまま貯めたりしません。買掛金の支払に使ったり、借金を返したり、投資を実行したりなど、様々なことに(現金を)使うのです。剰余金はそれらの元手となった利益をただ積み上げた累計記録なのです。ただ、銀行借入金などの負債と異なり返す必要のないお金ですので、何か「使えるお金」の様なぼやっとした誤解を招きやすいのでしょうか。。。
ということで、会社が利益を無駄に積み上げていると批判する(そしてペナルティとして課税する)のであれば、見るべきは資産の部(左側)なのです。資産勘定の大半が現預金であれば、会社は確かに資本を無駄にしていると言えましょう。
しかし、資本の所有者は誰でしょう?そう、株主ですね。「無駄にしている」と企業(の経営者)を責める主体は株主たちです。実際、現金を無駄に保有する会社は株主の強い批判にさらされます。経営者(取締役たち)が罷免されることもあります。
この様に剰余金に課税するとは株主に対してペナルティを課すことと同義です。こんなことをすれば、ただでさえ低調な日本の株式市場は壊滅的な被害を受けます。外国人投資家らはCrazyと言って見放すでしょう。
しかしあの、今は都知事の緑の方は本当に危ないですね。剰余金という言葉のイメージを使い、大企業叩きをすることで、支持率の上昇を図ったのでしょう。
剰余金が資本の部の金額であることや、そもそも株主のものであることを、知らなかったのでしょうか?
知らなかったのであれば(スタッフ含め)その無知は酷いレベルだし、知っててやったであればその手法は恐ろしいポピュリズムです。
残念ながら日本人のお金に対する知識・意識は世界最低レベルですので、多くの方が騙されるのでしょう。一人でも騙される人を減らすべく、このブログを続けていきます。
次回も貸借対照表を続けます。