投資に役立つメモ:為替レート~円安について
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  • 足元の円安は日米金融政策の違いでは説明できないレベル
    •日本の地政学的リスクが改めて意識され、中長期的な国力(≒生産能力)の棄損が織り込まれ始めたのでは
    •国債がゼロ金利近傍で発行できる今、安全保障分野への大規模な資金投与が必要

円安が止まりませんね(2022/3/17時点)。ロシアによるウクライナ侵略以降、特にこの流れが強まったように思えます。

米国株式に投資している人にとって円安は、既に保有している米国株式の円換算の価値が上がる「嬉しい側面」と、新たに米国株式に投資する際必要な円資金が増えてしまう「残念な側面」、プラスマイナス両方の側面があります。

投資、特に米国株投資には為替に対する見方が非常に重要な訳ですが、そこで今回は、為替レート決定のメカニズムについて考察してみましょう。

為替レートを決定する二つの要素

私は仕事柄、長年為替を扱ってきましたが、為替レートの方向性は、以下二つの要素で決まると確信しています。円ドルを例として、以下解説します。

  1. 日米両国の金融政策のスタンス
  2. 日米両国のインフレの動向

金融政策の違いが為替レートの方向性を決める

そもそも為替レートとは何でしょう?

それはドルと円の交換比率ですよね。

それでは(一般的に)交換比率はどの様に決まるでしょうか?

それは交換される二つのモノの総体的な量で決まると考えるのが自然です。

例えば、米と魚の交換を考えます。天候悪化などで米が不作の場合、米を得るために必要な(交換される)魚の量は(不作前の状況から)多くなります。すなわち米の希少性が増したのです。変な表現ですが、「コメ高サカナ安」の状況になったのです。

同様に、為替レートも、ドルと円の交換、です。ドルの量が増えればドル安、ドルの量が減ればドル高なのです(ここで増えるとは、円に対して相対的な量の意味です)。

さて、ドルの量(円の量)を決めるのは何(誰)でしょう?

もちろん中央銀行ですね。アメリカはFRB、日本は日本銀行です。

中央銀行は金融政策のスタンスを定期的に公表しています。今現在、FRBは金融引締(への転換)、日本銀行は金融緩和(の継続)が基本スタンスです。

金融引締はドルの量を減らしていく政策です。FRBはその方向に転換したのですから、交換の本質からドルは高く(円は安く)なるのです。昨年(2021年)秋頃からのドル高(円安)の流れは、素直に日米金融政策の違いの反映です。

*お金の量って何?どうやって測るの?と思った方は以下投稿を参照してください。
結論だけ言うと、お金の量は「マネーストック」で測ります。

中長期のインフレの動向の違いが為替レートを決める

インフレーションとは物価の上昇率のことです。そして物価とはモノ全般とお金の交換比率のことです。詳しくは以下を参考にしてください。

少し極端な例を用いてインフレと為替レートの関係を説明しましょう。

今、1ドル=100円とします。日本のインフレ率が100%になったと考えましょう。

何が起きる(起きた)かというと、日本で今まで10,000円で購入できたモノ(全般)が、20,000円出さないと買えなくなっているのです(インフレ率100%=(20,000-10,000)/10,000)。

スタバのコーヒーの値段も2倍程度になっているでしょう。
インフレ前、500円(5ドル)だったコーヒーが1,000円です。
しかし、アメリカでは日本のインフレとは関係なくスタバのコーヒーは5ドルです。
こういう状況下、1ドル=100円の交換が長続きするでしょうか?
しませんね。5ドルが1,000円に近づくよう、為替レートが動くでしょう。
すなわち、1ドル=200円に向かって、円は安くなるのです。

極端な例ですが、これがインフレと為替レートの関係です。

即ち、アメリカと日本のインフレ率の相対的な差が為替レートを動かすのです。インフレ率の大小で、以下の関係となります。

  • 日本<アメリカ⇒円高
  • 日本>アメリカ⇒円安

上記が基本的な関係ですが、以下重要な注意点を一つ。

  • インフレ率は足元のインフレ率よりも、中長期の見通しが影響する

スタバの例を見ると、アメリカでも日本でもコーヒーが同じ値段になるよう、為替レートが調整されるのでしたね。こういった一物一価は長期的な均衡への動きですので、影響するインフレ率は実績値そのものよりも中長期の見通しの値となるのです。

インフレーションを起こす二つのルート

インフレを引き起こす二つのルート

インフレーションとは物価の継続的な上昇のこと、そして物価とはモノ全般とお金の交換比率でした。

ゆえに(論理的に)、インフレーションを起こすには二つのルートがあることが解ります。

  1. お金を増やす
  2. モノ全般が減る

1.お金を増やす、はまさに金融政策ですね。金融緩和は、お金の量を増やし、そしてインフレを醸成することで、為替安を引き起こすことがわかります。アベノミクス初期の、急激な円高の修正を思い出してください。

供給ショックが現実化した

今回注目して欲しいのは、2.モノ全般が減る、ルートです。

このルートは「供給ショック」とも言われます。モノを供給するシステムに何らかの悪影響が働き、モノ全般が減ってしまう(よって物価が上がる=インフレになる)ことです。

昨年秋からの世界的なインフレは、コロナショックによる供給網の寸断により「供給ショック」が顕在化した側面が大きいですね。

そして今年2月に入り、ロシアによるウクライナ侵略です。石油、穀物など戦争による供給減少が予測され、そして現実化しています。

何故、円安か

インフレーションは供給ショックからも引き起こされることを説明しました。

しかし「なぜ円安か」の回答にはなっていませんね。

何故なら今回の供給ショックは全世界的なものであり、ことさら日本だけインフレが激しい訳ではありません。むしろ、欧米に比べて足元のインフレはマイルドです。

答えは、日本を取り巻く地政学リスクにあります。

日本の隣国はどこでしょうか?

ロシア、中国、北朝鮮です。独裁国で、全体主義国家です。今回ロシアの侵略で、独裁/全体主義国家の本質を見ることができました。

世界は(ウクライナ)の次は、東アジアと見ています。台湾、尖閣です。

つまり、日本もウクライナの様に隣国達の攻撃を受ける可能性を、為替相場は織り込み始めたのだと思います。

攻撃を受けるということは、生産施設が破壊されるということです。モノ全般が作れなくなり、減るのです。これはアメリカには薄く、日本には濃い中長期的なインフレ要因と看做され始めたということです。

日本の安全保障のために

地政学リスクというと、中近東や東欧の話と思っていましたが、市場は日本(東アジア)にもリスクが近づいていると、織り込み始めた様です。市場はイデオロギーでは動きません。損得で判断されますので、ある意味冷徹で予測可能性が高い思います。

ここでそのリスクを跳ね返すのは、日本には「十分な防衛力がある」ことを世界に示すことです。

防衛費の拡大、原子力潜水艦の保有、原発再稼働、国土のインフラ再整備など、やるべきことは山ほどあります。

今現在、新規国債は金利ゼロでも発行可能です。これは日本全体の供給能力が(未だ)高いことの反映です。このタイミングで国債を増発して、上記のやるべきことに予算をつぎ込むことが必要です。

もしかしたら、最後のタイミングかもしれませんので。。。

 

 

 

 

 

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