
前回、株式投資の合理的判断の二つの要素、すなわち リターンとリスク について説明しました。
・リターンは収益率、(配当+値上がり益)➗(投資金額)
・リスクはバラツキ度合い、標準偏差で定量化
同じリターンであればリスクの低い株式に投資するのが合理的でしたね。反論の余地は無いと思います。
今回は、複数の株式に投資することで、単一株式より同一リターンで低リスクのポートフォリオを必ず組成できることを説明します。
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分散投資の効果 同じリターンなのにリスクが低下する!
株式A、Bがあります。いずれも配当利回り8%が期待できるとします。
株式Aの値動きは以下でした。
100 →105 →102 →98 →95 →98 1→101 →102 →101 →100
標準偏差を計算するすると約2.9です。
株式Bです。値動きは;
100 →95 →98 →102 →105 →102 →99 →98 →99 →100
標準偏差は同じく約2.9です。
さて、株式A,Bを同数組み入れたポートフォリオを作ります。P(A, B)と表現しましょう。P(A, B)の標準偏差はどうなるでしょうか?何と0になるのです。
値動きを見てみましょう。Aの動きと全く逆の動きをBはしています。Aが5上がるとBは5下がる。Bが4上がるとAが4下がるなど。結果、A+Bの合計は常に200で、全くバラツキが無くなるのです。期待リターンは8%でリスクゼロ、夢のようなポートフォリオ!
もちろんこの例は極端なケースです。現実にはこの様な組み合わせはまずありません。分散投資のリスク低減効果が理解しやすいよう、敢えてこの例を作りました。
しかし、これは極端にしても、全く同じ動きをする株は存在しませんので、分散投資を行えば必ずリスク低減が可能になります。一つの株価の上がり下がりを、他の株の動きがある程度相殺するのです。
そして、新しい株式を追加すればする程、リスク低減効果は高まるのです。ある組成済みポートフォリオと、追加する新たな株式は、全く同じ動きをしませんので、ポートフォリの変動を相殺する効果が、追加するたびに続いていくのです。リスク(標準偏差)について以下の関係が成り立つのです。
P(A, B)+ C > P(A, B, C)+ D > P(A, B, C, D)+ E ・・・・(繰り返し続く)
有効フロンティア ポートフォリオ選択はこの線上以外あり得ない!
上のグラフは、二つの株式(A、B)を分散投資するとき、その組み入れ割合に応じてポートフォリオのリターンとリスクがどの様に変化するかを示したものです。
(リターン、リスク)の様々な組み合わせができますね。(4%、2%)、(6%、3%)とか。
この「投資可能曲線」を良く見ると、赤い曲線以外の組み合わせを選択しても意味が無いことが分かりますね。何故なら、同じリスクに対してリターンがより高い組み合わせを、必ず赤い曲線上で見つけることができるからです。
その意味で、赤い曲線を「有効フロンティア」と呼びます。その線上で、好みのリスクとリターンの組み合わせを選ぶことができるのです。
どうやって選ぶって?それは貴方の「リスク選好度」次第です。「ハイリスク・ハイリターン」を好むのなら線の上方を、「ローリスク・ローリターン」なら下方です。
因みに、「ローリスク・ハイリターン」の組み合わせは存在しません。そんな上手い話はないのです。その様な組み合わせが仮に一瞬実現したとしても、そのポートフォリオは抜け目のない投資家に買われて値段が上がり、「ローリスク・ローリターン」に瞬時に変わります。
逆に「ハイリスク・ローリターン」はどうなるか。そのポートフォリオは誰も買おうしませんね。値段が下がります。結果「ハイリスク・ハイリターン」に変わるのです。
この、金融の世界における(金融だけではないと思いますが)「ハイリスク・ハイリターン」の法則は重要です。冷徹に鉄壁に成立しています。「必ず上がる株」は無いのです。何故なら「必ず上がらない」水準まで株価は上がってしまうのだから。経済学に「フリーランチは無い」と言う言葉がありますが、金融・経済でくれぐれも覚えておきたい鉄則です。
さて、以上は株式だけでポートフォリオを作る話でしたが、債券や現金をポートフォリオに加えると話は新たな展開を迎えます。ある意味、驚くべき展開です!
市場ポートフォリオ 現金や債券をポートフォリオに加えたら?
国債(リターン3%、リスク0)をポートフォリオに加えたグラフです。国債を100%の割合とした場合、リターン3%、リスク0%の点となります。無リスク資産と呼びます。国が破綻でもしない限り、利息と元本は支払われますからね。
さて、その点から右上がりの直線が3本引かれています。この線は、国債と株式ポートフォリオで割合を変えてポートフォリオを作った場合の(リターン、リスク)の組み合わせを示したものです。
3本のうち、選択できる組み合わせは黒い太線のみです。有効フロンティアに接していますね。
上の線は、有効フロンティアに接していないので、そもそも実現不可能な組み合わせです。
下の線は、有効フロンティアの下方を横切っていますが、有効フロンティア上に無い非効率な株式ポートフォリオをわざわざ選ぶことになります。
よって、無リスク資産と株式ポートフォリオの組み合わせ(投資ポートフォリオと呼びましょう)は必ず有効フロンティアに接する太線上になります。この線は「資本市場線」とよばれます。
そして接点、Qと表示していますが、この点が選択すべき唯一(!)の株式ポートフォリオになるのです。
資本市場線では、Qは株式ポートフォリオに100%投資した場合を表しています。その左側は、例えば株式80%、国債20%、同(50%、50%)、同(20%、80%)、そして左端四角の点は国債に100%投資した場合です。
国債を加えたら、何と選択すべき株式ポートフォリオは一つに限定されるのです。この点Qは「市場ポートフォリオ」と呼ばれます。
トービンの分離定理 株式ポートフォリオの配分はもう悩まなくて良い
頭が混乱するかもしれませんが、この結論の鍵は、リスクがゼロでリターンがプラスの無リスク資産が存在することにあります。投資ポートフォリオ全体のリスク度合いの調整は、株式ポートフォリオをいじらなくて良い、無リスク資産をどの程度配分するかで決めよ、と言っているのです。
この結論は経済学者トービン が提唱し「トービンの分離定理」と呼ばれます。
分離定理のエッセンスは;
・株式(リスク)資産の最適ポートフォリオを一つ決めよ
・その後、最適ポートフォリに国債を加えてリスクの調整をせよ
貴方がハイリスクを好むなら株式(リスク)資産を多くすれば良い、ローリスク・ローリターンで良いのなら、国債を多くする。ただ、株式ポートフォリオの最適化をあれこれ悩む必要はない。
どうでしょう?
エッセンスはわかる気がするけど、その株式(リスク)資産の最適ポートフォリオって何?点Qは具体的にどうなっているのよ、と思われたでしょう。
答えはあります。
市場で現実に取引が成立している全ての株式を組み入れたポートフォリオ、です。
現実がトービン に近づいている
トービンの分離定理は確か1950年代に提唱されていると思います。当初「全ての株式を組み入れたポートフォリオ」は非現実と思われたでしょう。しかし現在は、S&P500、ダウ平均、TOPIXなど株価全体の動きと連動する「インデックス投資」が可能となっています。世界には1万種を超えるインデックスが存在すると言われ、株式だけでなく不動産なども組み入れたインデックス・ファンドがあります。
今や「全世界の全ての株式を組み入れたポートフォリオ」に投資することが可能です。私も行っています。私個人は「全世界インデックス」を好みます。実際、長期的パフォーマンスは極めて良好です。
トービンの提唱に現実が近づいたと言えるのでしょう。投資の主流は、彼の予言通りインデックス投資となっています。
さて、点Qがなぜ「市場インデックス」なのか、考えましょう。
最初学んだ頃、私は何だか騙された様な気がしました。ここまで標準偏差や分散やら、ミクロ的・数理的に説明しておきながら、いきなり「株式市場全体」ってマクロの話かよ、突然感あるなー、って感じです。
しかし以下の通り考えて、すっきり理解できました。それこそ二つに分けて考えるのです。
・トービンの分離定理は、理想の株式ポートフォリオは一つしかない、と言っている。この論理は明確で、確かに最も効率的な点Qは一つしか存在しない。しかし、分離定理自体から具体的なポートフォリオを算出できない。そういう構造になっている
・それでは分離定理から一旦離れて、最も効率的な株式ポートフォリオって何だろうかと、考える
つまり、理想の株式ポートフォリオは一つしかないのだからそれを選べ、との設問なのです。こう考えると、確かに「株式市場全体」以外に答えはないのだな、と腹落ちしました。
私が理想的なポートフォリオを作れるか?無理だな、そんな情報持っていない。
それでは証券会社?プロといってもそこまで情報持っているかな。まして全世界株式など無理だろう。
これに比べて株式市場そのものは、それこそ全世界の人間が、あらゆる情報を駆使して売買を秒単位で繰り返した結果なのです。少なくとも他に比較できないほど効率的なのは間違いない。「一つ選ぶとするなら」株式市場全体しかあり得ないのです!