
前回、株式市場は8%程度の収益率が期待できることを説明しました。通常程度の経済成長が前提です。日本を残念な例外として、世界全体では概ね経済成長は実現できていました。注意すべき点として、8%は株式市場全体での期待収益率で、個別株式については原理的に予測不能であることです。前の投稿を参照ください。
今は規制が厳しくなりできなくなりましたが、昔は証券マンが「この会社の株は絶対に上がるから」等と言って薦めたものです。絶対に上がるなら、皆の買いが殺到して値段は上がりますよね。どこまで上がるかというと、上がるか下がるか分からないと皆が判断する値段にまでです。この様に、個別株式の価格は、上がる下がるが等確率になる水準で均衡します。安過ぎるのも、高過ぎるのも、株価は皆がほっとかないのです。
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リスクとリターン
分散投資の説明の前に、投資判断の2大要素(というか、この2つしかありません)について説明します。それは リターン と リスク の二つです。
リターン
収益率のことです。横文字を使いますが、金融の世界の慣習ですので慣れてくださいね。因みに、金融の世界では日本は徹底的にマイナーで、実業でもアカデミーでも殆ど存在感は無いです。付け加えれば、経済学の世界でもそうです。
リターンは「率」であることに注意してください。絶対額ではありません。具体的には以下です。
(配当+値上がり益)➗(投資金額)
例えば100万円で株を購入し、一年後に配当3万円、株価は105万円にした場合、リターンは8%です。 (3+5)➗100=8%
リスク
ここでも横文字です。但し、この和訳は金融では「危険」ではありません。「バラツキ」または「不確実性」が適当でしょう。前の投稿を参照ください。
RiskとDanger
日本語では双方ともに「危険」と約しますが、英語ではこの二つはニュアンスが異なります。Dangerは予想できない、避けようが無い「危険」。Riskは事前に予想される、自己責任的な「危険」の意味。金融の世界でRiskは、この意味合いに加え数量化可能である事が重要です。
リスクの定量化〜標準偏差
リスクは定量化できなくては意味がありません。リターンよりやや数学的な手法が必要ですが、そんなに難しいものではありません。「標準偏差」、或いは「偏差値」という言葉を聞いた事がありますでしょう。金融の世界ではリスクを標準偏差で測ります。
具体例をみましょう。ある株式A, Bの過去の値動きが以下としましょう。
株式A: 100 →105 →102 →98 →95 →95 →98 →101 →102 →100
株式B: 100 →103 →102→ 99 →97 →97 →101→ 102→ 101 →100
株式Aの標準偏差は約2.9、株式Bの標準偏差は約1.8になります。平均はほぼ同じですが、標準偏差は 株式A>B となります。Aの方が株価のバラツキ度、リスクが高いということです。リスクは標準偏差で数値化されるのです。
リスクとリターンに基づく合理的な選択
株式投資の尺度は、リターンとリスク、この2つだけです。もちろん、会社の商品や経営方針に共鳴してその会社の株を買うこともあるでしょう。しかし、リターンが得られず、株価の変動が大きいリスクの高い状態が続く株式は、市場で売り圧力に押されます。株価が低迷する会社は買収の対象になります。どんなに素晴らしい商品や立派な経営方針を持っていても、株式のリターンとリスクに無頓着な会社の経営は、長続きしないのです。ドライに感じるかもしれませんが、定量的に計測できるこの二つの要素、リターンとリスクが株式選択の基本です。株式市場もその様に動いています。
株式の合理的な選択とリスク選好
ここで、株式A, 株式B共に収益率(この場合配当)が8%だとしましょう【case1】。貴方はどちらの株式を選択しますか?株式B以外ありませんね。なぜなら同じリターンなのにリスクがBの方が低いからです。リスクとリターンに基づく株式選択はこの様に考えます。合理的ですよね。
それではAの収益率が10%、Bが6%の場合はどうでしょうか【case2】。この場合、合理的な唯一の選択はありません。貴方のリスク選好度によって決まります。貴方がリスクを好むのであれば株式A、好まないのであればBを選択するのでしょう。但し、リスクを好む度合いにもよります。リスクは好まないが、4%もリターンに差があるなら少々リスクはあってもAを選ぶことも、十分に考えられます。株式の選択はこのケースの場合、「リスク選好度」に応じて決定されます。もう一本方程式(リスク選好度)がないと解が出ないのです。逆に言えば、選好度が与えられれば、合理的な唯一の解がでます。
(収益率、標準偏差)の形で表現してみましょう。
【case1】 A(8, 2.9)、B(8, 1.8) 【case2】A(10, 2.9)、B(6, 1.8)
こう見てみると、Case2は議論の余地なくB、Case2は少し迷うな、と思いませんか。
分散投資によるリスク低減効果
さて分散投資です。分散投資とは、複数の株式を「混ぜて」投資をすることです。分散による効果は、単一銘柄に投資するよりも、同じリターンで低いリスクの組み合わせが実現できることです。とすれば、単一銘柄に投資する理由は無くなり、ポートフォリオへの投資が合理的となりますよね。次回詳しく説明します。
因みに、ポートフォリオ(portfolio)は「複数の書類を纏めて持ち出す鞄 書類入れ」の意味が元々です、金融が転用した感じでしょう。尚、金融におけるportfolioの日本語訳は思い浮かびません。portfolioの訳はポートフォリオでしょうね。