息子の為の金融論17 資本コストと企業金融③~EPSとPER
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前回まで、企業の資本コストの求め方を説明しました。以下の式でしたね。

資本コスト =リスクフリーレート +β(ベータ)×(市場ポートフォリオの期待収益率−リスクフリーレート)

・投資家は合理的であり分散投資を行う

・分散投資を行うには市場ポートフォリオ(現実の株式市場のミニチュア)が最も効率的

・市場ポートフォリオでは企業の個別リスクは消去され、システマティック・リスクのみ残る

・システマティック・リスクに対する個別株式の感応度がベータとして計算され、リスクの尺度となる

以上を思い出してください。

キャッシュフローと割引率で株価は決まる

さて、資本コストの計算方法はわかりました。資本コストは投資家から見れば割引率でしたね。

ここで、キャッシュフローと割引率が決まれば、現在価値=金融商品の値段が計算できる、ことを思い出してください。

株価も同じです。割引率(資本コスト)はもう計算できます。キャッシュフローは企業が稼ぎ出す将来の利益ですね。

但し、企業の利益は将来に渡って成長することに特徴があります。これから株価にとって重要な指標を二つ説明します。

EPS(一株当たり利益)とPER(株価収益率)

EPS: Earnings Per Stock

EPSとはEarnings Per Stockの略で、一株当たり純利益と約されます。

計算は極めて単純で、利益を発行済み株数で割ります。

当期純利益÷発行済株式総数=EPS

例えばある会社の発行株式数が2000万株、当期純利益が100億円とすると、EPS500円(100億÷0.2億)となります。

EPSは、利益の成長性を見る指標として良く使われます。過去のEPSを見れば、企業の利益がどの程度成長してきたかがわかりますね。「一株当たり」に換算するのは、発行株式数変動の要素を取り除くためです。

EPSは絶対額よりも、その成長率が重視される指標です。

PER: Price Earnings Ratio

PERとはPrice Earnings Ratioの略で、株価をEPSで割ることで求めます。

例えばEPS500円の企業の株価が6000円の場合、PER12倍(6000÷500)となります。

EPSの何倍まで株が買われているか、を示す指標として、割高・割安を判断する材料ともされます。

例えばPER10倍を下回ると割安、とかよく言われます。

しかしこの様な判断材料に使うのはミスリードで、PERはむしろどの様にきまるのか、を考察することが重要だと思っています(以下解説していきます)。

PERはどのように決まるか

EPSは、企業の過去の業績、あるいは業績予想を発行済み株式数で割れば求まる、解りやすい指数だと思います。

一方PERは、株価の変動に応じて都度変わりますし、そもそも何倍程度が適正なのか、EPSに比べて掴みどころがない感じがします。統計的には、業種による差もありますが、日本では10~12倍、アメリカでは14倍程度が最頻値(よく現れる数値)といわれます。

ここでは、割引配当モデルによる株価決定式から逆算して、PERの決定式を示してみます。

まず、割引配当モデルでは株価は以下と表現されます。

ここで、配当性向100%とすると、D=EPS となります。

すなわち、P=EPS/(r-g) ここで株価はEPS x PERですので EPS x PER=EPS/(r-g)

以上より $$PER=\frac{1}{r-g}$$  であることがわかりました。

株価は利益だけでなく資本コストに影響される

株価は以下二つに分解できるのでした。$$株価=EPS \times PER$$

この分解により、同じような利益規模及び成長期待の会社でも、株価に差が付く理由が説明できます。

EPSは利益(及び成長期待)で決まりますが、PERは利益成長率と資本コストで決まりますね。
そう、利益ばかり追求して資本コストに注意を払わない会社は、株価が伸び悩むのです。

資本コストについては前回までに詳しく説明しましたね。システマティック・リスクに対して共振する度合いがベータで、それが高いほど資本コストは高止まるのでした。

現実には、ベータだけで資本コストが決まらないことが解っています。CAPMは、市場が企業の情報を完全に把握するなど、やや非現実な仮定に基づいていますので(但し、現実がCAPMが依り立つ前提に近づいてきていますが)。

次回は企業が資本コストを引き下げるための方策など、詳しく説明します。

 

 

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