息子の為の金融論16 資本コストと企業金融②~ベータの意味
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資本コストを具体的に計算してみよう

前回、資本コストは以下の式で求められることを説明しました。

資本コスト =リスクフリーレート +β(ベータ)×(市場ポートフォリオの期待収益率−リスクフリーレート)

リスクフリーレートは、代表的には国債金利のことですが、日本の金利は現在ほぼゼロですので、上の式は簡便的に以下となります。

資本コスト =β(ベータ)×市場ポートフォリオの期待収益率

ここで、市場ポートフォリオとは現実の株式市場(のミニチュア)でしたね。そこで日経平均の期待リターンを調べてみると、過去実績等から約6%と推計されます。後はベータが分かれば資本コストが計算できます。

ベータを調べてみましょう。ある株式の分散を、その株式と日経平均の共分散で割ることで得られましたね。ロイターが公表していますので、日本を代表する企業3社を調べると;

トヨタ(1.1)  東京ガス(0.5)  野村証券(2.1)

よって、各社資本コストは;
   トヨタ: 6.6%(=1.1 x 6)
   東京ガス: 3%(=0.5 x 6) 
   野村証券: 12.6%(=2.1 x 6)

ここでベータは、日経平均に対する個別株の感応度でしたね(日経平均が1動くと、どれだけ動くか)。トヨタは日経に近い動きですね。東京ガスは反応が少ない、景気不景気にあまり左右されないでしょうからね。逆に野村証券は激しい、確かにこの業界の業績は、日本経済の動きにレバレッジがかかった様なもの。

ベータの意味を考える

ベータ計算の最大の前提は、ポートフォリオ投資でした。分散効果により、個別株式の固有リスクは薄まり、究極的には市場ポートフォリオを組むことで、システマティック・リスクのみが残ります。ベータは、市場ポートフォリオの中の個別株のリスク感応度、として計算されたのでした。

改めて「何がリスクか」を考える

「コンビニF社の主力総菜工場が水害にあい、お弁当の販売に大きな支障が出た。F社社長はリスク管理が甘かったと反省の弁を述べた。さて、投資家の貴方にとって、この事態はリスクであろうか?」

どう思いますか?社長にとって見たら明らかにリスクですね。リスク管理が「甘い」とは、主力工場を地域的に分散するなどして、天災の被害を最小限に留める施策を講じてなかった点です。

でも投資家の貴方にとっては?F社の株だけをもっていたらリスクでしょうが、コンビニにはS社もL社もありますね。F社の弁当が売れなかった分、S社とL社の弁当が売れるのです。株価的には、F社が(この理由で)下げるなら、S社とL社の上げで相殺されるのです。投資家にとっては、分散投資というリスク回避の手段があるので、このF社水害は全くリスクとならないのです。F社だけ投資をしていた人は、投資の手法を単に「誤った」のです。

では次はどうでしょう。

「202X年、コロナ禍の悪影響で日本経済が未だ低迷している状況下、政府は財政再建の為として増税を決定した。消費増税に加え、所得税の一部に「コロナ復興税」を加えるという。経済学者は「これで財政が健全化し、将来不安が消え経済成長に弾みがつく」と説明するが、その後日本経済は未曽有の恐慌に陥った」

あり得そうで怖いシナリオですが、会社経営者にとってリスクなのは言うまでもないですが、投資家の貴方もいかに分散投資しても回避できないですね。システマティック・リスクそのものです。

ポートフォリオを組むことができる投資家にとって、真のリスクはシステマティック・リスクであることが、この例で理解いただけると思います。

ベータが意味するリスクとは

ベータは市場ポートフォリオに対する個別株式の感応度です。
上の例でお分かりの様に、分散投資をする投資家にとって関心があるのはシステマティック・リスクです。その観点から、ベータは、個別株式がシステマティックにどれだけ反応するか(共鳴・振幅するか)を示した指標です。

ベータが高い株式は、全体の動きをより振幅させてしまうのです。投資家にとっては、ポートフォリオのリスクを高めるので、全体の中で占める割合が小さくないと困ります。時価総額が減少する方向に、すなわち売りの方向で扱われる個別株式です。
ベータの低い株式は逆です。時価総額が増加する方向に、すなわち買いの方向で扱われます

独自性のある企業はベータが低い

ある会社が株価を上げたいので、ベータを何とか下げられないか、考えます。
何をしたら良いのでしょうか。ベータはシステマティック・リスクの振幅度でしたね。
ですので、できるだけ振幅しないようにするのです。つまり、株式市場全体の中で独自の動きを取る位置づけ、を考えるのです。
システマティック・リスクに対して、他社と異なる独自な対応で抵抗力を付ける、これがベータを下げる基本戦略です。
独自なサービス、商品を提供する会社の株価が高いことは、この戦略の正しさを裏付けています。

CAPMから得る洞察 皆と同じはリスクが高い

CAPMは、投資家の合理的行動として分散投資を当然とし、最も効率の良い市場ポートフォリオを見出すことで真のリスク(システマティック・リスク)を炙り出し、個別企業についてはそのリスク振幅度をベータで表現することに成功しました。

この理論から得られる洞察は、ある意味、日常感覚とは異なるものです。

それは、「皆と同じ様な行動はリスクが高い」ということです。

とかく「取り合えず他社と同じような企画で」「あまり尖った商品はリスクが高くて」と、特にサラリーマン経営者は考えがちです。横並びの前例主義ですね。「皆で渡れば怖くない」という言葉もありました。

しかし、全てに「投資する」視点からみると、全体と同じような動きをする存在は、リスクの共鳴板に見える。あまり多くはいらない存在、できるだけ排除したい。逆に全体と異なる動きをする存在は、リスクの振幅を抑えてくれるありがたい、全体に多く占めて欲しい(=価値が高い)存在、ということ。。。「皆で渡れば危なっかしい」のです。

冷徹な(←クールという意味、ここでは誉め言葉)ファイナンス理論からは、日常感覚では得られない洞察を得ることができま。その一つがCAPMです。皆さま、いかが感じましたでしょうか。

 

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