息子の為の金融論15 資本コストと企業金融①~株式投資の真のリスク
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数回に分けて株式投資の理論を説明してきました。
分散投資によるポートフォリオ効果トービンの分離定理など、できるだけ解りやすく解説したつもりです。
いよいよ今回から、資本資産価格モデル(CAPM)の中核を成す「資本コスト」について、説明していきます。

資本コストとは株式投資の「割引率」

ハイリスク・ハイリターンの法則

過去の投稿(息子の為の金融論68)で「割引率」の話をしました。

お金を投資する場合、その投資のリスク(バラツキの程度)に応じて、投資の(現在)価値が決まると説明しました。「ハイリスク・ハイリターン」の法則で、リスクが高いほど割引率が高くなるのでした。
考えれば当たり前ですね。
必ずお金が戻ってくる投資商品Aと、戻ってこない可能性がある投資商品Bがあるとします。この時リターンがA>Bであるとしたら、誰もBを買わないですよね。結果Bの値段が下がって、リターンはA<Bとなることで落ち着くのです。

投資家から見れば「リターン」会社から見れば「割引率」

「割引率」と「リターン」という言葉が混じって解りにくく感じたかもしれません。この二つは同じ内容を別の言葉で言っているだけです。
投資する側から見れば「リターン」投資される側から見れば「割引率」です。

「資本コスト」は株式を発行する側から見た「割引率」です。

株式に投資する側から見れば、「必要収益率(リターン)」となります。
混同しないでくださいね。

会社の資本コストはどの程度? 配当は保証されていないし、株は値下りするかもしれない

資本コストの計測は、次の質問に対する解を求めることから始めます

 貴方が株主投資をするとして、最低でも欲しいリターン(必要収益率)は、どの程度でしょうか?
(=株式を発行する企業として、最低でも株主に支払う必要のある割引率(資本コスト)は、いくらと見積もるべきでしょうか?)

具体的な数値はともかく、会社の資本コストが、現金・国債(安全資産)より高くなるのは、簡単に理解できると思います。

その会社が債券(社債)を発行していたら?
株式はその社債よりも高いリターンが必要となります。

なぜなら、社債は投資金額に利息が付いて期日に戻りますが、株式については、配当は業績によるし、株価も下がるかもしれない、、、つまりバラツキが大きいのです。

 つまり、投資で要求されるリターンは、現金・国債<社債<株式、となります。
大小はわかりました。では具体的な数値はどうでしょう?

現金・国債、そして社債の割引率(リターン)は利息ですのでわかりやすいですね。利息は、1%とか2.5%とか、決まった利率で決まりますので。

ところが株式投資のリターンは、配当+値上り益、です(株価が下がった場合はマイナスになります)。この、事前に決定していない株式投資の「割引率」(=資本コスト)はどの程度なのか

それは、投資家が求める「必要リターン」を株式市場の動き(全体及び個別株式)から推計する作業、となります。

株式投資の真のリスクとは

投資家は合理的でありゆえに分散投資を行う

分散投資をすれば、個別株式のリスク(標準偏差)を低減できると説明しました。

個別株式投資よりも有利な有効フロンティアが(分散投資によって」)形成されました。分散の仕方で変わる、ハイリスク・ハイリターンの曲線でしたね。

現金・国債などの安全資産を加えると、有効フロンティア上で選択すべきは一点に限られる。その一点は市場ポートフォリオと呼ばれ、現実に存在する株式市場のミニチュアでした。

リスクとリターンの組み合わせは、市場ポートフォリオと安全資産の組み合わせで実現するのが最も効率的です。

トービンが提唱した「分離定理」と呼ばれる投資の手法で、現代のインデックス投資を予言したものでした。

 個別株式ではハイリスク・ハイリターン法則が成り立っていない?

さて、下は複数の個別株式と有効フロンティアを示したグラフです。青い◇が個別株式です。

ここで個別株式A、Bに注目してください。二つは同じリターンですがリスク(標準偏差)はA<Bとなっています。

変だと思いませんか。「ハイリスク・ハイリターン」の法則では、この様な組み合わせはあり得ない筈ですね。Aが買われBが売られることで、リターンもA<Bとなることで落ち着く筈です。

でも、このA、Bのような株式は、市場に実際に存在しています。また「ハイリスク・ハイリターン」法則は厳然と成立しています。とすると、個別株式の標準偏差はリスクの指標ではない、となりますね。

では何が株式投資における真のリスク指標なのでしょうか?

投資家の関心は市場ポートフォリオ

前回「株式投資理論」を超訳を交えて纏めましたが、要点は、投資家は市場ポートフォリオに対する投資を行うことが最も合理的、でした。

とすれば、投資家の関心は個別株式の動きではなく、市場ポートフォリオ全体にあるのです。

個別株式の動き(バラツキ)は分散投資によって、究極は市場ポートフォリオ(株式市場全体のミニチュア)に対する投資によって、打ち消すことができます
それでも消去し得ない、株式市場全体に与える要因こそが、市場ポートフォリオのリスクなのです。

前回の投稿で、市場ポートフォリオに対する投資は、世界の経済成長に対する投資だ、と述べました。これはリスクの観点では、市場ポートフォリオのリスクは経済成長に悪影響を与える出来事、と言い換えることができます。

具体的には、マクロ経済政策の誤りや、金融システム不安、などがあります。このリスクは全ての株式に悪影響を与え、いかに分散投資をしても消去できません

マクロ経済政策の誤りは、日本の金融・財政政策が典型です。金融危機はリーマン・ショックが未だ記憶に新しいですね。

これら株式市場全体に与えるリスクをシステマティックリスクと呼びます。
投資家が直面する真のリスクはシステマティックリスクでした

個別株式をシステマティックリスクの観点から見ると

さて、投資家の関心は市場ポートフォリオにあり、個別株式のバラツキはもはやリスクではないことが分かりました。

こう考えると、投資家にとって個別株式への関心は、分散投資に組み入れる際にポートフォリオ全体にどの様な影響が加わるか、にあることがわかります。
具体的には、市場ポートフォリオの変動に対して個別株式がどの程度の感応度を持つか、です。

数学的には、個別株式と市場ポートフォリオの共分散を、市場ポートフォリオの分散で割ることで計算します。これをベータ(β)と呼びます。
例えばある株式のベータが1.2と計算されたなら、その株式は市場ポートフォリオが1変動した場合1.2動くことを示します。先の個別株式の「リターン/標準偏差」グラフを「リターン/ベータ」グラフに変換したものが以下です。

どうでしょうか。今回は「ハイリスク・ハイリターン」の関係がはっきりと表れましたね。但し、リスクは標準偏差からベータに変わっています

資本コストは市場ポートフォリオとベータから推計する

長くなりましたが、資本コストを推計することが本稿の目的でした。

国債や社債は利息として数値が明示的に現れますが、株式投資は異なります。業績で変動する配当や、株価の変動がリターンに影響します。

そこで、投資家が株式投資に期待するリターンはどの程度か、を株式市場から推計するアプローチが必要となります

合理的な投資家は分散投資、市場ポートフォリオへ投資するのでした。そうなれば、もはや個別株式のバラツキは関心にはない
システマティックリスクにどの程度反応するのか? これが個別株式をポートフォリオに組み入れる際の関心事です。

そこで数学的手法を用いて、個別株式の市場ポートフォリオに対する感応度を計算します。これがベータと呼ばれるものです。

ベータが求まれば、個別株式に対する期待リターン(=資本コスト)は以下の式で計算されます。

資本コスト =リスクフリーレート +β(ベータ)×(市場ポートフォリオの期待収益率−リスクフリーレート)

上記が、資本資産価格モデル(CAPM)による資本コストの公式です。

明示的に現れない株式のコストを、株式市場から推計される投資家の期待リターンから逆算するアイディアです。逆算の際、鍵となるのは市場ポートフォリオです。もはや個別株式のバラツキそのものは重要ではなく、システマティックリスクにどの程度感応するかで、ハイリスク・ハイリターンの関係が描かれました。

次回はベータの持つ意味合いなど、更に解説していきます。お疲れさまでした。

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