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コロナを起因として財政政策への関心が強まっている
コロナ経済対策として、やっと一律10万円給付が決定しました。それにしても麻生財務相は酷いですね。あと財務省が「反対した」と新聞記事にありますが、官僚が反対する権限は無い筈です。事実だとしたら(そうでしょうが)越権行為として本来は問題なのですがね。
一方、今回コロナを契機に(赤字)国債発行を原資とする財政出動への理解が深まってきている様に思えます。国会議員ですと、あんどう裕議員、細野豪志議員、玉木雄一郎議員らがツイッターで積極的に発言しています。前はタブー視されていましたので、これは良い傾向です。広く遍く伝わるよう、様々な媒体、あるいは家庭においても(!)財政政策の必要性を拡散していきたいと思います。今まさに旬なトピックスです。感染より経済的理由の死者が増えかねない状況ですから。
企業財務の観点から日本の「借金」を考える
国債は国の借金などと表現されることが多いですが、国民、そして多くの「識者」と呼ばれる人の間でも、多くの誤解があると思います。そこで私の専門である企業財務において「借金」とはどういうものかを見たうえで、「国の借金」とは何かを考えてみたいと思います。
企業の資金調達は資本と負債
企業の資金調達の基本は利益です。儲けてお金を手に入れることです。この利益は「資本」に積み立てられていきます。
「資本」は企業を立ち上げる際に必要なお金です。設立者が出し合います。会社は資本を返す必要はありません。その意味で、利益と資本は「自己資金(資本)」と表現されます。
企業は、資本や利益を超えるレベルでのお金が必要になる時があります。資本を新たに募ることもできますが、手続き含めそんなに簡単ではありませんので、銀行などからお金を借りることが一般的です。この借入金は負債に組みいられます。資本と異なり返す必要があります。その意味で、借入金(負債)は「他人資本」と呼ばれます。
企業財務における借金
資本と負債が企業の資金調達の基本であることを説明しました。負債、すなわち借金は「何を差し置いてもまず返済しなければならないお金」であることが最大の特徴です。借金を返さないと、銀行取引が停止され企業は活動を停止せざるを得なくなります。更に、工場や土地など重要な資産を銀行に処分されてしまい、企業として死亡してしまいます。企業にとって借金は、他人から借りたお金であり、返さないと企業の存続に関わるお金です。この「他人から借りる」「企業の存続に関わる」は国債との対比で重要になるポイントです。後で説明します。
借金は悪か
企業は事業を拡大する為に借入金を使います。新たな商品やサービスを更に大きく展開する為です。夢の実現のためと言っても良いでしょう。もちろんリスクはありますが、企業の本質はリスクを取るところにあります。リスクテークにより、新たな成長が生み出されるのです。金融の世界では、買入金をレバレッジ(梃子)と呼んだりします。資本金を梃子に、何倍も事業規模の拡大を可能にするからです。「借金」と言う言葉にあるネガティブなニュアンスはありません。日本は借金に無条件にネガティブな烙印を押す傾向がありますが、本来借金は企業の成長、拡大に必要なものです。
国債は日本国の借金か
日本国の借金で無いことは明らか
企業財務を説明しました。借金(負債)の本質的性質は「他人に返さなくてはいけない、さもないと企業の存続に関わる」ことにありました。
さて、政府の負債である国債はどうでしょう。その殆どは日本国内で購入されています。国債は、日本の組織である政府が日本人(法人を含む)から借りて、日本人に返す借金です。つまり、日本国全体で見れば、日本人の間でお金が行き来しているだけなのです。日本国全体で見れば「返す必要のない」、もっと言えば「返しようのない」お金なのです。国債は日本国の借金では全くありません。よくマスコミが「日本国の借金は世界一膨大」などと報道しますが、全くの誤りです。無視して構いません。
中南米の国などで「国債が返済できない(ディフォルトと言います)」とニュースになることがありますが、その国は外国から、あるいは外国の通貨で国債を発行した(せざるを得なかった)ため、海外の投資家に返せずに大きなニュースとなるのです。日本とは全く事情が異なるのです。
国債は政府の資本
日本国全体では国債は借金とは言えないことはわかりました。それでは政府にとってはどうでしょうか。日本国債の(長期的)保有者の殆どが日本人とはいえ、政府にとっては返済する必要がありますので、これは負債でしょう。しかし、自国通貨で借り換え(ロール・オーバー)が常時可能であることを考えると、資本性が極めて強いと考えられます。企業も劣後債という、借金と資本の合いの子の様な資金調達をしますが、その資本性を更に強めたものが自国通貨建て国債だと考えられます。
国債を日銀が引き受ける場合
日銀は国の公的機関ですね。その機能から考えると政府の一部と考えるのが妥当です。日銀は企業財務の言葉を使えば、政府の子会社です。そう見たとき、政府が発行する国債を日銀が引き受けた場合、政府単体では借金になりますが、日銀(子会社)を連結したベースでは、国債は消去されます。全体で見れば借金は発生していない、という事です。
例えば家計を共にする夫婦で、夫が妻から借金した場合、家計全体では借金が発生しませんよね。離婚して家計を別にしたら、夫には借金、妻には融資が発生するのです。
日本は国債の大量発行を問題なくできる
以上、国債は日本国の借金ではないこと、政府にとっては限りなく資本に近いこと、そして日銀が引き受ける場合、政府連結ベースでは借金は発生しないことを説明しました。
日本は国債残高が膨大、これ以上の発行は無理だという通説があります。本当でしょうか。企業財務の観点からは政府・日銀は問題なく国債大量発行を実現できると考えられます。
議論があるとすると ・国債の資本性(無限にロールオーバーできるか)、・日銀は国債を大量引き受けできるか、でしょうか。
国債は無限に借り換えできるか
日本国が正常に存在し、そして機能していること、そして人々が将来も日本がそうあり続けると信じる限り、国債は発行(借り換え)可能です。企業と異なり国は永続的に存在すると考えるのが普通ですよね。全ての活動の前提と言って良いかもしれません。この永続性の前提が無ければ、人々は紙幣を信頼しません。皆が将来も(この紙切れが)1万円の価値があると思うから、今1万円として交換できるのです。国債が発行できないというのは、紙幣が使えないというのと同様、極端な議論です。国債は政府の資本と考えることは妥当です。
日銀は国債をどの様に引き受けるのか
日銀が国債を引き受けるとは、政府の発行した国債という金融商品を日本銀行がお金を払って買う、行為です。では日銀はそのお金をどうするかというと、通貨を発行して(刷って)調達するのです。その場合、日銀の財務にどの様な変化が起きるかというと、資産に国債が増え、負債に通貨が発生するのです。
通貨が増えると何が起きるか。インフレへの圧力がかかります。インフレーションとは「物価」の上昇のことです。「物価」は財・サービスの平均的な価格ですが、流通する通貨の量が増えると上昇します。量が増えた通貨の価値が減る(=財・サービスの価格が上がる)と考えた方がわかりやすいかもしれません。
国債発行によるコストはインフレ
以上、膨大と言われる日本の国債はこれ以上増やせるのか、を考えました。
・日本全体では国債は借金でも何でもないこと
・政府にとっては国債は資本(返す必要のないお金)に近いこと
・国債を日銀に引き受けさせた場合、政府・日銀連結で借金は増えない、但しインフレへの圧力がかかること
が分かりました。国債を今後大量発行する場合に気にしなければならないことは、インフレだけですね。
しかし日本はデフレです。2%程度のインフレにしたくてもなかなか実現できない状況です。国債大量発行を日銀が引き受ければ、インフレ目標達成への道筋も描けるのです。国債大量発行は、やらない理由がないのです。
更なる財政拡大を求めていこう
私の様に企業財務に何十年も携わった者から見ると、日本はこれ以上国債発行ができない等トンデモない戯言で、むしろ発行が少なすぎてデフレになっている姿が映ります。政治家、官僚、そして経済学者が国債は出せない、それどころか増税だ、と主張する理由が全く理解できません。というか、彼らの説明は、国債の表面残高だけを示して「借金が多すぎる」と言っているだけです。私から見ると、彼らは借金の本質や連結会計が理解できていない。「借金を減らす」ことを目的に屁理屈(理屈にもなっていませんが)を捏ねているだけなのでしょう。
コロナで明らかになったことは、政府・官僚・経済学者はやっぱり国民のことをまったく考えていないこと。今回の彼らの対応は諸外国中最低ですよね。遅い、細い、小さい、のダメの三重奏。加えて経済団体も酷い。例の10万円支給に関連して「電子マネーで給付を」と言った代表がいましたね。何もわかっていない老人が言いそうな言葉。経済団体も悪い意味で予想通り。
政府・官僚・経済学者の言うことを聞いてはいいけません。もう騙されない様にしましょう。堂々と給付金の更なる配布、消費減税を要求していきましょう。今回良く分かったでしょう、彼らのレヴェルの低さが。話を聞く価値はありません。
財源?ここで説明した通り、国債を100兆円でも発行して日銀が引き受けたら良いのです。おまけに、インフレ目標達成がついてきます!
加えて、政府役人は隠し持ってますよ。いろんな形で。お代官様にお金が溜まるのは江戸時代から続く日本の伝統。
さて、今夜は時代劇でも見ようかな。痛快に悪代官を斬ってくれるからね。