
経済学は役に立つ知識の宝庫です。
特に日本人には苦手だけど世界的には当たり前の考え方が詰まっています。
今回は「GDP統計」について説明します。
最初に、GDPとは「ある国の年収」というイメージをもってください。GDP成長率は「年収の伸び率」になりますね。
ある街に(当たり前ですが)複数の家庭があります。殆どの家庭は、伸び率は違うものの、年収が(毎年)ある程度は伸びているでしょう。しかし、貴方の家だけは年収の伸びがほぼゼロです。そしてその状態で20年が経過してしまいました。。。
貴方の家庭はどうなるでしょう?回りの家庭に比べて貧しくなっていますね。結果、他の家庭が買えるような商品、彼らが楽しむレジャーなどが買えなくなっています。なぜなら、他の家庭には当たり前の値段が、(成長してこなかった)貴方の家庭にとってはとても高価になってしまっているのですから。。。
実はこれはこの20年間日本で起きたことです。世界のなかで殆ど唯一「年収が伸びなかった家庭」でしたから。結果、全ての活動が他国に比較して「貧弱」で、かっては世界を席巻した「made in Japan」は見る影もありません。
GDPの成長は事程左様に一国にとり重要なことです。しかし日本人はどれだけその重要性を意識しているでしょうか?我々はもう少しマクロの経済問題に関心を持つ必要があります。
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そもそもGDPとは
GDPとは、「Gross Domestic Product」の略で、「国内総生産」のことを指します。 1年間など、一定期間内に国内で産出された付加価値の総額、と定義されます。
GDPとは「付加価値」の総額である
ここで重要なのは「付加価値」の意味です。簡単に言えば「儲け」、もう少し正確には「粗利」のことです。
例えば、200万円の材料を仕入れて1,000万円を売り上げるラーメン屋さんがあるとします。このラーメン屋さんの「粗利」は800万円(1,000万円ー200万円)です。800万円の付加価値を創造した、と難しく言うこともできます。
GDPは付加価値の総額、そして付加価値とは「儲け」(粗利)であることを、最初に押さえましょう。
GDPで計上される付加価値は市場で取引された価格に基づく
付加価値は「儲け」なので、市場で取引された価格を使うのは当たり前と思うかもしれません。
しかし、「価値とは何か」については、経済学では長い論争があり、一つの有力な仮説として「労働価値説」があります。これは「生産物の価値は投下した労働量によって決まる」とする考え方で、マルクス経済学などが採用しています。日本の高齢の経済学者などは、未だに労働価値説を信奉している「大御所」がいたりします。
しかし、どんなに大勢の人が手間をかけても「売れにくい作品」は高い値段が付きません。なのに労働価値説では高い価値がある(多くの労働力が投入されたから)としてしまうのです。
この価値論争に拘泥してしまうと、客観的な付加価値の計測がそもそも不可能になってしまうのです。
よってGDP計算における付加価値は市場で取引された価格に基づく、としているのです。何故なら、自由に取引された価格なのだから売買双方にとって納得した価値があるのだろう、という相当に説得力のある割り切りで、価値論争から抜け出ることが可能だからです。
GDPについて、価値はお金では測れないなどと、観念的な批判をする人が特に日本では多いですが、市場価格を基に計算を行う理由として、上記の「価値論争問題の現実的解決」を覚えておいてください。
GDPは新しく生み出された付加価値のみを計上する
貴方が所有する(中古)マンションを一億円で売却したとしましょう。
市場(不動産マーケット)で仲介業者経由、第三者と価格交渉のうえ成立した取引です。
さて、この取引で一億円の付加価値は計上されるのでしょうか?
答えは「否」です。その中古マンションが新たに分譲されたのは何年も前です。そのマンションの付加価値(販売代金ー工事費・原料費)は、その新たに(初めて)分譲されたときに既に計上済みなのです。
このように、GDPはその年に新たに生み出された価値のみが計上されます。
因みに、仲介業者に払った手数料は「その年に新たに発生したもの」なので、GDPに計上されます。
GDP統計の三面等価原則
三面等価原則とは
三面等価の原則とは、GDPが「生産面」「支出面」「分配面」のいずれからみても恒(つね)に等しいことをいいます。
生産されたもの(生産面)は供給のことです。供給されたものは、誰かがそれを需要することになります(支出面)になります。また、どのようなかたちで経済主体にお金が入ってくるか?が分配面になります。纏めると以下になります。
- 生産面から見たGDP = 新たに生み出された付加価値の合計
- 分配面から見たGDP = 営業余剰+雇用者報酬 = 消費+貯蓄+税金
- 支出面から見たGDP = 消費+投資+政府支出+輸出-輸入
生産面から見たGDPとは付加価値の合計、すなわちGDPの定義そのものです。
分配面からみたGDPとは、新たに生み出された付加価値は必ず誰かのものになるという意味です。営業余剰とは会社の株主や銀行の取り分、雇用者報酬とは文字通り給料のことです。分配面はまた別の面からも表現されます。それは、付加価値は必ず消費に回されるか、貯金されるか、または税金の払いに用いられる、という関係です。
支出面から見たGDPとは、付加価値がどう使われているかの観点から分析するものです。付加価値は、消費として使い切るか、将来のために投資されるか、または政府が何らかの目的で支出するか、のいずれかです。また、海外も考慮すれば、付加価値は海外に輸出(日本国内で生み出された付加価値が海外で支出される)というかたちでも使われます。尚、輸入がマイナス項目として入っているのは、GDPは「国内で生産された」付加価値を計測しているからです。我々が支出する財・サービスには海外で生産されたものも含まれますので、その分を輸入をマイナスすることで控除するのです。
三面等価原則からわかること
三面等価原則は応用の効く使える概念です。
まず、支出面から見たGDPから分ることに、政府支出の重要性があります。等価原則から分配面に一致するのですから、消費が落ち込んでいるなかで政府支出を抑えれば、営業余剰や雇用者報酬が減ることがわかります。これはこの20年間日本政府がおこなってきたことですね。
次に経常収支に対する理解です。
分配面=支出面ですから(上記記載の式を使って)
消費+貯蓄+税金=消費+投資+政府支出+輸出-輸入
となります。この式を変形すれば、以下となります。
(輸出ー輸入)=(貯蓄ー投資)+(税金ー政府支出)
この関係は「ISバランス(投資貯蓄バランス)」と呼ばれ、経常収支黒字(赤字)は一国の貯蓄が投資を上回る(下回る)ことに等しいとういう恒等式です。経常収支黒字は、メディアなどでは「国の稼ぎ」と勘違いされて報道されますが、国が貯金ばかりしている、あるいは税金ばかり徴収している状態の裏返しなのです(まさに日本です)。アメリカは逆に、民間も政府も「元気良く」お金を使うので、ずーと経常赤字を続けています。
マクロ経済的には貯蓄は美徳ではないとも考えられます。マクロ経済学の視点は極めて重要です。日本人はもう少し関心を持つ必要があります。政府に騙されない為に。