
•経常収支の「赤字」は問題でも何でもない
•そもそも日本は貿易立国などではない「内需の国」
•経常収支の黒字は「国の稼ぎ」とは全く関係のない資金の流出のこと(赤字は逆)
•経常収支は一国の貯蓄投資バランスの反映(貯蓄超過なら経常収支は黒字、逆は赤字)
•日本の過去の経常収支黒字の累積(対外純資産残高)は「日本で使い切らなかった」お金が海外に回った残高。日本のデフレ状態(消費・投資意欲の減退)の反映に過ぎない
みんなが誤解している「経常収支」
日本の経常収支が「赤字」になったとして、日本経済新聞などがまた大騒ぎしています。
経常収支、あるいは貿易収支を家計の「稼ぎ」のイメージで理解しているのでしょう。
しかしこれは全くの誤りです。
経済現象については「二つの大きな誤解」が存在すると思っています。一つは「お金についての誤解(*)」、そしてもう一つが「経常収支に関する誤解」です。
いずれの誤解も間違った経済政策に結び付く罪深いものです。日本の大手メディアの殆どは、この誤解に基づいた報道をします。
本ブログのテーマに沿って、もう騙されないための「経常収支の本当の話」を以下記します。
(*)お金についての誤解については、以下投稿を参照してください。
そもそも経常収支とは
そもそも経常収支とは、一定期間における海外とのモノやサービスの取引、投資収益のやりとりなど経済取引で生じた収支を示す経済指標です。
経常収支の内訳は、自動車などモノの輸出から輸入を差し引いた「貿易収支」、旅行などを対象とする「サービス収支」、配当・利子のやりとりを示す「所得収支」などがあります。
内閣府が公表しているデータを見てみましょう。
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グラフに示されている通り、日本の経常収支は基本的に黒字で推移しています。金額的にはブレはあるものの年間2兆円程度をイメージしてください(GDPの3%程度)。
経常収支の内訳は、貿易・サービス収支は赤字、所得収支が黒字となっています。過去は貿易収支は黒字でしたが、2010年頃から赤字に転じています。所得収支は黒字幅が年々増加しています。
つまり現在の日本は、海外のやりとりをみると、財・サービスは輸入超であり、海外投資からの配当がそれを上回り、全体では黒字になっている構図なのです。
多くの人は、日本は貿易立国でその黒字で「稼いでいる」と思っていたのではないでしょうか。
しかし実態は、既に10年前から貿易は赤字なのです。全体を黒字にしているのは、いわゆる金融所得なのです。
日本は貿易立国ダー、というその誤解をまず解いてください。
経常収支は「稼ぎ」ではない
所得収支が黒字であることから、「今は日本は海外投資で稼いでいる」と宣う論所もいます。
しかしこれも全くの誤りです。
まず「黒字額」はGDPの5%にも達しません。日本経済全体としたら「小遣い」にもならない規模なのです。日本は圧倒的に内需の国です。ここも抑えてください。
次に、ここが多くの人が誤解しているところですが、経常収支は単なる資金のやりとりです。黒字とか赤字とか言うから誤解されるのです。資金の流入・流出、或いは英語でインフロー・アウトフローと呼ぶ方が正確です。
経常収支の定義を復習しましょう。
貿易収支+サービス収支+所得収支≡経常収支
ここでもう一つの定義を紹介します。
経常収支の黒字(赤字)≒資本収支の赤字(黒字)
経常収支が黒字とは海外の金融資産を増やしている、ことと同値なのです。
資本収支の黒字とは海外からの資金インフロー(流入)のことです。同じく、赤字とは海外への資金アウトフロー(流出)です。
経常収支が黒字(資本収支が赤字)とは国内で「使い切れなかった」お金が海外へ流出する、ことなのです。結果、海外の通貨、債券、株式など(金融資産)が増えるのです。
なぜ「(国内で)使いきれない」のでしょう?それは国内で消費・投資意欲が停滞しているからです。まさに、日本の失われた30年の状態です。
この様に、経常収支とは「国の稼ぎ」とは全く関係の無い、海外との資金のやり取りの描写です。国の経済の状況を反映する典型的なマクロの指標です。
貯蓄・投資バランスと経常収支
経常収支の黒字はマクロ的な消費・投資意欲減退の反映、と説明しました。もう少し詳しく見てみましょう。
新たな定義式です。
(民間貯蓄ー民間国内投資)+(政府収入ー政府支出)=経常収支
この式の左辺全体は、民間と政府を合わせた国全体の資金供給と資金需要の差額、すなわち貯蓄・投資バランスを示しています。民間が投資をあまりせず、政府も支出を抑えると、左辺はプラスになりますね。国は資金余剰となります。その資金余剰分は経常収支と等しくなるのです。
この事は、経常収支黒字・赤字とは国際的な資金貸借にともなって生じる現象だということを、意味します。
海外から資金を借り入れる事無くしては、どの国も貿易赤字を出す事はできないし、逆に海外に資金を供給している国は貿易黒字にならざるを得ない。これが、上記定義式の意味することです。
日本とアメリカを例に取ってこの意味を描写してみましょう。
日本は代表的な経常黒字国ですが、アメリカは代表的な経常赤字国です。これは、日本は不況で消費意欲が薄く投資機会も少ない。よって折角の資金をアメリカに提供している、とも言えるのです。アメリカは好況で消費者は元気、企業活動も活発で投資資金需要も高い。よって日本の資金を使ってでも経済成長に邁進している、と描写できるのです。
どうでしょう。経常収支は「国の稼ぎ」とは全く関係ないこと、むしろ経常赤字の方が国としては活況、という事実を理解いただけましたでしょうか。
実際、日本の対外純資産は世界一(360兆円程度)ですが、このお金は過去「日本で使いきれなかったお金の累計」なのです。何も喜ばしいことでは全くないのです。この分、我々日本国民は国内消費・投資ができなかったのですから。
最後に、経常収支黒字(赤字)ランキング(2020年)を記します。参考にしてください。