
経済学は役に立つ知識の宝庫です。
特に日本人には苦手だけど世界的には当たり前の考え方が詰まっています。
今回は「比較優位の原則」について、説明します。
比較優位の原則は、貿易のメリットの関連で説明されることが多いですが「交換」一般について、深い洞察を与えてくれます。
この原則のポイントは、1)重要なのは相対的な優位性であること 2)交換によって機会費用が「現実化」する の2点です。以下、説明していきます。
比較優位の原則
比較優位原則は、英国人リカードが19世紀初頭に提唱した、外国貿易および国際分業に関する理論です。一国の各商品の生産費の比を他国と比較し、優位の商品を輸出して劣位の商品を輸入すれば双方が利益を得ると主張しました。
重要な点は「比較して優位」というところです。
リカードは(当時の)イギリスとポルトガルを例にとって説明します。交換(貿易)される財は、葡萄酒と毛織物です。
当時は、気候の関係でしょうか、葡萄酒も毛織物もポルトガルの方が少ない労働で生産が可能でした。ただ、イギリスは葡萄酒に比較して毛織物の方が少ない人出で生産可能でした。
さてこの場合、両方とも安く(少ない労働力で)生産可能なポルトガルで全て作れば良い、と考えがちです。
しかし違うのです。イギリスは「比較的」得意な毛織物に特化し、ポルトガルは葡萄酒の生産に特化することがベストなのです。もちろん、その特化した財(毛織物、葡萄酒)は交換(貿易)するのが前提です。
ここでベストとは二国を合算した毛織物と葡萄酒の生産量が最大化される、という意味です。
尚、詳細な解説は以下投稿を参照してください。
繰り返します。ポルトガルはいずれの財にも「絶対的」優位を持っていますが、「比較をすれば」葡萄酒の方に優位を持ちます。同じくイギリスも「比較をすれば」毛織物に優位を持ちます。この場合、比較的優位な(得意な)財の生産に特化し、お互い交換することで、双方とも利益を得ることができるのです。
絶対的に有利なポルトガルでの葡萄酒の生産を一部やめて、イギリスでもできる(比較的得意な)毛織物に労働力を振り分けるのは、ポルトガルの優位性を犠牲にすることで「もったいない」。比較優位原則はそんなイメージです。
ここで「もったいない」が出てきました。比較優位原理の本質、「機会費用」の登場です。
比較優位原則と機会費用
機会費用につきましては、前回投稿で説明しました。
以下の例で説明しました。
- 貴方は一流のコンサルタントで、一時間で1万円の相談料が稼げるとします。同時にPCスキルも巧みで、パワーポイント等の資料つくりも人並み以上にこなします
- コンサルの仕事が忙しくなってきたので、資料作成についてはパートを雇うことを考えました。ある程度の完成度を求めるには、時給2千円程度は払う必要があります
- 貴方はその2千円を高いと思い、やはり今まで通り自分で資料作成もすることとしました
- 2千円を払わずにすんで、ちょっと得した気分です
さて、この例で、貴方はパートの人よりもPCスキルも優秀だとします。
この場合、貴方はコンサルと資料作りの両方をこなすべきでしょうか(だって両方とも得意なのだから)?
違いますよね。上のポルトガルの例と同じで、貴方はコンサルに徹し、資料作りはパートを雇うべきなのです。
これは一種の交換です。貴方はコンサルに特化し、パートの資料作りの時間と交換するのです。それによって(交換しなかったら失ったであろう)機会損失(8千円=1万円ー2千円)を回避できるのです。
この、機会損失の回避が比較優位原則の本質です。ポルトガルに毛織物を作らせるのは「もったいない」、優秀なコンサルが資料作りに時間を割かれるのは「もったいない」。
交換するものは常にある
比較優位原則から得られる洞察は、交換するものは常にある、ということです。
イギリスにしても、パートの人にしても、自国(自分)より「優秀」な他者に対して比較優位があるものを輸出(提供)できるのです。この交換により、全体の経済的厚生が向上するのです。
よく「輸出するものがなくなる」とか、「貿易の競争で勝つ」とか、通俗な経済新聞、雑誌名などで書かれていますよね。しかし比較優位原則から考えると、常に交換するものはあるし、そもそも貿易は競争ではないことがわかります。
誰でも、どこの国でも、交換に参加できるのです。各々の個性に応じて。比較優位原則からはこんな素敵な洞察が得られます。
とはいえ貿易自由化には限界があることにも留意
比較優位原則からは貿易(交換)の本質的なメリットについて洞察が得られますが、とはいえ現実には全ての生産物を貿易に頼って良いという訳ではありません。国の安全保障という観点からの制限があるからです。二つの観点があります。
- 貿易の相手方の属性:貿易の相手方は同じ価値観の国でなければなりません。具体的には中国や北朝鮮などの独裁国との貿易はNGです。貿易の意図が異なる可能性があるからです。領土侵略の野心が隠れているかもしれません。あるいは要人の買収が目的の一つかもしれません。
勝手に輸出・輸入の制限をかけるリスクは常にありますし、現実にも発生しています。 - 貿易する財の属性:水・食糧・エネルギーは自給すべきです。輸入依存は極力抑えるべきです。生命維持の為の最低限の必要条件だからです。日本は水は問題ありません。食料も、本来は自給できる能力を持っています。現在の惨状は国が自給を許していないからです。
エネルギーも、小型原子力開発や日本海に埋もれる潜在的な資源があります。自給も夢ではないのです。これも政府にやる気がないだけです。
ロシアの侵略行為や、中国の潜在的脅威を考えると、安全保障の観点からの自給自足は不可欠と考えます。そのようなことを提唱する政治家を国会に早急に送る必要があります。政治は人ごとではありません。自分(そして子供たち)たちの生命に直結する政(祭りごと)です。日本国民は目覚める必要があります。