
【マンキューの十大原理】
1.人々はトレードオフに直面している
2.あるものの費用は、それを得るために放棄したものの価値である
3.合理的な人々は限界原理に基づいて考える
4.人々は様々なインセンティブに反応する
5.交易(取引)は全ての人をより豊かにする
6.通常、市場は経済活動を組織する良策である
7.政府が市場のもたらす成果を改善できることもある
8.一国の生活水準は、財・サービスの生産能力に依存している
9.政府が紙幣を印刷しすぎると、物価が上昇する
10.社会は、インフレと失業の短期的トレードオフに直面している
Contents
人々はどのように意思決定するか ②
十大原理の1~4「人々はどのように意思決定するか」、今回は3について説明します。
合理的な人々は限界原理に基づいて考える
経済学の最重要概念「限界」
さあ、経済学の最重要概念である「限界」が出てきました!
ここでの「限界」は、日常で使う意味とは全く違います。日常では「もう我慢の限界だ」など「ぎりぎりの境」という意味で使われますね。でも経済学では「微調整した場合の変化」の意味で使われます。例えば「あと一つものを生産した場合の追加的費用」とか、「ビールを一杯追加で飲んだ場合の満足度」などです。この例でいえば、「微調整」とは追加の一つ、一杯の意味です。「変化」とは(追加される)費用、満足度のことです。
英語の "marginal" をそのまま「限界」と訳したのでしょう。日本語にぴったりする言葉が無かったからでしょうか。
経済学の「限界」は数学における「微分」のこと
経済学でいうmarginalは数学における微分の意味です。微分は高校で習う極めて重要で役に立つ概念です。未学習の方の為に、以下の図で説明します。
微分(値)とは、ある状態から微小単位に動かした場合の変化の方向量、を指します。
上図では、点A、Bの微分値は接点の傾き、になります。AよりBの方が、傾きが緩やかになっていますね。
これが何を意味するかを、工場の例で示します。
上図のグラフ(青色)は、ある工場での生産量(X)と製造コスト(f(X))の関係を示しています。
工場は固定費もあるので、通常生産数量が増えるほど追加の生産に必要なコストが減少します。
上のグラフは右にいくほど傾きが緩やかになるのは、この費用逓減効果があるためです。
点A、Bの微分値は接戦の傾きですが、これは追加で(最小単位の)生産を行った場合の(追加的)費用、を示しているのです。A>B(費用逓減)となっていますね。
因みに、点A、Bに0から引いた直線(黄色)の傾きは「平均値」(f(a)÷Xa、f(b)÷Xb )を表しています。点Bにおいて、平均よりも微分の傾きが緩くなっていることに注目してください。
限界原理で考えるということ
微分についてご理解できたでしょうか。訳が適切かは別として、経済学で「限界原理で考える」とは、常にある状態の微分を考えることと、同値です。
上の工場の例では、これ以上生産をするかどうかの判断は、平均費用ではなく限界費用で考える、ということです。
点Bでは平均より限界費用が大きく減少していますね。会社は生産を増やすか否かの判断では、追加のコストと売れ残りのリスクを総合的に判断して決めます。このとき、平均費用で考えてしまうと、追加コストを過大見積もりしてしまうのです。これでは折角の売上拡大のチャンスを逃してしまいますね。合理的に判断するなら「限界費用で考える」なのです。
あと二つ例を挙げましょう。
①一杯目のビールは二杯目より美味しい!
これはお酒のみの人なら直ちに実感できますよね。ゴルフの後の最初の一杯はたまらなく美味しいです。もちろん二杯目も美味しいですが、最初の一杯にはかないません。
この現象を経済学では「限界効用逓減の法則」といいます。上の工場のグラフを使えば、最初の一杯が点A、二杯目がBに相当します。赤の傾き(微分値)は効用の高さを示します。
この法則は殆どの消費財に適用されます。例外は、中毒性のある薬物などでしょうか。因みに、限界効用逓減が働かない財では、値段が収斂しません。薬物に法外の値段がつき、破産する人々が絶えないのは、この理由によります。規制が必要となる根拠です。
②ゲーム配信はなぜ無料か
フォートナイトとか、最近のオンラインゲームは本当に面白いですよね。大人も夢中になります(但し、子供にはてんでかないませんが)。
こんな面白いものがなぜ無料なのか、と思ったことはありませんか?
その理由は、限界費用がほぼゼロだからです。100人だろうが、一億人だろうが、ダウンロード数にかかわる追加的費用はゼロなのです。だったら、無料にしてできるだけ多くのDLを稼ぎ、コンテンツ内で課金してくれる確率を上げることが合理的なのです。
日本企業はこのことを理解せずに過去大きな失敗をしました。音楽のダウンロードです。いまや当たり前の音楽DLですが、始まった当初、音楽コンテンツを買っても再生可能な機器に制限がかけられていました(音響メーカーのサイトから購入したコンテンツはそのメーカーの機器のみで再生可能)。囲い込むつもりだったのでしょう。
しかしAppleはこの制限を撤廃し、どの機器でも再生可能、何度でも転送できるサービスを開始しました。結果はAppleの大勝、多くのDLを稼ぎ、結果、再生機器(ipod)も爆発的に売れました。
限界費用ゼロの特徴を良く活かした戦略だと思います。とにかくDLを稼ぎ(追加費用がかからないのだから)、そのDLした楽曲を簡便に再生できる機器を開発して売る、大成功です。
日本メーカーはまず機器を作って、その機器に音楽を取り込もうとする発想。ソフトウェアの限界費用を理解していないことが、失敗の本質でした。
「累計」という考え方の問題点 コロナ禍を考える
コロナの報道は酷いですね。ここまで煽るかと思います。
その報道の中で、累計の発症者数(重傷者数、死亡者数)が強調されることがよくあります。
例えば日本では8万人超、世界では3千3百万人超、などです。
この累計という考え方は、微分とは(繋がっているものの)対極の考え方です(数学的には累計は「積分」といいます)。
しかしこの累計に何の意味があるのでしょう?この累計者数の多くは、発表時点では回復者でしょう(特に重傷者数・死亡者数の極端に少ない日本では)。
また、コロナ騒動の初期時点と今では、感染予防対策や医療体制に格段の差がでています。全く異なる状況で発生した感染者の数を足し合わせて、何になるのか。江戸時代から今までの乳幼児死亡者数を足し上げて「うーん、死亡者数が今も増えているな」と深刻な顔をするようなものです。
注目すべきは微分、そう、限界(的な)増加数なのです。ここでも合理的な判断は、限界原理なのです。
一日あたりの感染者数(*)が増えているかな、重傷者数は増えているかな、と感染者数(重傷者数)累計グラフ(横軸は期間、縦軸は数)の接線の傾きが、注意すべき指標なのです。
累計は煽るのに丁度よいので、マスコミは確信犯的に使っているのでしょうね。皆さん、騙されないようにしましょう。それには「限界原理」です。
(*)尚、PCR検査結果は「感染者」ではなく「陽性者」と報道すべきです